番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(19)

 もちろん、大手ハウスのジャンケット・ルームやプレミアム・フロアで、まっとうな稼ぎから得られたまっとうなカネで、太い博奕(ばくち)を打つ人たちがいないわけじゃない。しかしそれは、前述したように少数派だ。

 そういう清廉潔白な人たちですら、国税からの「お尋ね」「お問い合わせ」の手紙は、もらって嬉しいものでなかろう。おまけに、「税務調査」や「査察」がかけられてしまえば、ほぼ間違いなく税務署側の言い値通りのカネをむしり取られる。

 それゆえ太い博奕を打つ際は、香港やシンガポールといった相対的に所得税の最高税率が低い国(香港は15%、シンガポールは2016年に上がって22%)の「ハイローラー」たちですら、自分が居住する国以外に存在するカジノで、バカラの札を引くものだ。

 なぜなら前述したように、カジノにおける自国民のバイイン(=チップを購入すること)は、一定額を越えれば、ハウス側から国税への報告義務が生じるからである。

 先に、外国在住の「ハイローラー」たちの集客は、業者に委託するのが一番安全かつ確実、と書いた((17)を参照のこと)。

 なぜ、美味しい餌をしこたま撒けるカジノ・ハウス側より、業者側の方が外国在住「ハイローラー」たちを集めやすいのか?

 もちろん、業者側でも負けじと、いろいろと美味しい(時として怪しげな)餌をしこたま撒くのだが、それよりもなによりも業者側が「ハイローラー」たちを集めやすいという最大の理由は、次の部分にある。

 彼ら彼女らの個人情報を握っている(笑)。

 どうしてそんな不思議な「個人情報リスト」を握れるのか、いやそもそも、そんな「リスト」が存在するのか?

 存在する。そしてタネがわかれば、簡単な仕組みである。

 あれ、主に、非合法賭場(どば)における上客のリストなのだ。それゆえ、「蛇(じゃ)の道は蛇(へび)」となり、「ハイローラー」たちの個人情報がジャンケット事業者に流れる。

 法律でどれだけ厳しく禁止しようが、世界各地あまねく非合法の賭場は存在する。

 イスラムの戒律が厳格な国でも、社会主義体制の国にもある。

 ずいぶん以前に引用したが、チャールズ・ラムの言葉では、

 ――ヒトは、賭けをする動物。

 なのだから、いかに法律で厳禁されようとも、ヒトは博奕(ばくち)を打つ。

 有史以来そうだった。いや有史以前からヒトは博奕を打っていた。それを証明する証拠品が数多く掘り起こされている。

        *        *        *     

 ちょっと、話が飛ぶ。

 周知のように、現在のところ(パチンコ・パチスロを除く)ゲーム賭博が法的に認められていない日本に、もっとも近い政府公認のゲーム賭博場が存在するのは韓国である。

 韓国カジノの起源を、すこしだけなぞってみよう。

 1967年、まず試験的に仁川にオリンポス・ホテルに小舎(こしゃ)カジノが立ち上げられた。翌68年に、より本格的なソウル・ウォーカーヒル・ホテル(現シェラトン・グランデ・ウォーカーヒル・ソウル)のカジノが開業した。

 カジノ解禁にかかわる名目上の理由は、外貨獲得のためだった。

「外貨獲得」が目的なのだから、「内国人」入場禁止である。

 2000年、東北の山岳地帯にオープンした江原(カンウォン)ランドという唯一の例外を除けば、2017年の現在にいたるまで、韓国のカジノは「内国人入場禁止」となっている。

 このケースにおける「内国人」の法的定義は、韓国在住の韓国籍所有者である。

 在外韓国籍所有者は、含まれない。

 それゆえ、いろいろと腹を抱えて笑ってしまいそうなエピソードが生まれてきたのだが、当稿の論旨から外れるので、それはそれでまたそのうちに書くとしよう。

⇒番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(20)

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PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。