番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(28)

 もちろん日本で「公認」カジノがオープンすれば、最初の3~4年は、各大手カジノ事業者が既にもつプレミアム・プレイヤーのリストに載る日本国外の打ち手たちだけで、VIPフロアは埋まるのだろう。

 しかし物珍しさや招待の好条件が消えれば、海外からの大口の打ち手たちは去る。それは、シンガポールの例が示した。

 すると新たな海外からの「ハイローラー」たちの集客は、どうやっておこなうのか? 

 ご存じない人たちも多かろうが、カネって重いのである(笑)。

 1億円は、銀行から下ろしたばかりの新札でも、10キロある。

 人間の怨念が付着する使い古した紙幣だと、もっと重くなる。

 怨念には物理的質量があったんだ、と勘違いしてしまうほど重い。

 世界中の大手ハウスを眺めてみればよくわかるのだが、いわゆる「ハイローラー」と呼ばれる打ち手たちの90%以上は、中国系である。

 これを、新規オープンとなってしばらく経った日本の「公認」カジノに、どうしても呼び込む必要がある。大陸からの「ハイローラー」たちに日本のカジノで博奕(ばくち)を打ってもらわなければならない。

 呼び込めないようなら、一件1兆円だとする投資の短期回収など、とても覚束ないのだろう。

 この場合、ヒトの移動は同時にカネの移動も含む。

 国外持ち出し制限が厳しい大陸から、大量のカネを持ち出さなければならない。

 さて、どうすればいいのか?

 制度的なノウハウをもち、実績がある大手ジャンケット事業者に頼るしかあるまい、とわたしは思うのだ。

 まさにシンガポールがそうだった。

 2010年、それまでゲーム賭博が違法だったシンガポールに、『リゾートワールド・セントーサ(RWS。ゲンティン・マレーシア資本)』と『マリナーベイ・サンズ(MBS。LVS・ラスヴェガス資本)』がオープンした。

 この開業の際、業態としてグレイな部分を含むことが多かろうジャンケットは、排除されている。

 周知のようにシンガポールの「公認」カジノは、大成功を収めた(それゆえ、日本の『IR実施法案』の参考とされている)。

 オープンから4年で、観光客数で63%の増加、観光収入で100%の増収をみたのである。カジノの売り上げ(=チップの購買額マイナス払い戻し額。つまり一般的な会計上での「粗利」)は、それぞれRWSで2000億円、MBSで2250億円だった(2013年)。

 ところが2015年になると、カジノの収益は落ち込み始める。

 RWSおよびMBS両社のリストに載る大口のプレミアム・プレイヤーたちの足が遠のいたからである。

 すると、どうしたのか?

 そもそもシンガポール政府によるIR認可の基本政策は、ノン・ゲーミング施設を強調し、ギャンブルの要素を希薄化するはずのものだった。リー・カン・ユーの時代から、シンガポールは構造的腐敗やグレイゾーンの存在を厳しく取り締まる政治形態を(すくなくとも表面上は)つづけている。

 それにもかかわらず、IR事業者たちは、グレイゾーン的な要素を色濃くもつジャンケットの導入を、結局政府に認めさせた。

 ジャンケットを導入すれば、中国大陸からの「ハイローラー」たちを安定的かつ継続的に供給できるからである。

 さて、構造的腐敗やグレイゾーンだらけの日本では、この問題にどう対応するのだろうか。

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PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。