第6章第2部:振り向けば、ジャンケット(12)

 先方にも事情があることだろうから、ジャンケット業者に怪しげな客がつくのは、ある意味、必然だった。カジノのVIPフロアでは、「怪しげな客の怪しげなカネ」が張り取りされるのはしかたない。

 しかし銀行員時代を含め、良平は「日本のウラの仕組み」ばかりを見てきたような気がした。

 まあ、「オモテの仕組み」における歯車として組み込まれれば、大多数の人たちは、約束されていた年金まで削られて「死ぬまで働け」とこき使われ、おしまいとなってしまうのだろう。したがって生涯、大手ハウスのVIPフロアで博奕を打つ機会もあるまい。

「そうかい。バカラ屋なら、この近所にもあるんやから、あんたの張りに丸乗りしようと思っとったのに、残念やな」

 釜本が薄く笑った。

 ウソつけ。

 もちろん、良平は口には出さない。

 それから話題は共通の知り合いのものに移った。

「『アガリ』となった連中は、皆さんシンガポールに移住してもうたし、ドバイに移ったおっさんもおったな。まだ関西に残ってる連中は、往生しとる。自己破産とか夜逃げとか、そんなんばっかになってもうた。塀の内側に落ちたのもおるし」

「そういえば、Fさん、2年だったね」

 釜本とよく一緒にマカオを訪れていた男の名を出した。

 最近現れないと思っていたら、塀の中でしゃがんでいる、と良平は聞いた。

「あれもひどい話やった。小さな詐欺罪でやられて、2年6か月の求刑を出してもらうよう、日赤やらなんやらに、ぎょうさん寄付もしよったんよ。そしたら求刑は2年ぽっきり。丸まる喰らってもうた」

 求刑で「6か月」がつくと、執行猶予をつけていい、という検察から裁判所へのメッセージとなるらしい。

 したがって「懲役2年6か月」の求刑は、「懲役2年」の求刑より「安い(=軽い)」。

 海外生活が永くなると、日本のシステムはわからないことばかり。

 良平は苦笑した。

「そろそろ、大会でも開いてよ。生き残ってる奴らまとめて、行くからさ」

 と釜本。

 ジャンケット主催のバカラ大会をやれ、と催促された。

「1億2000万くらいでいいんですか? それなら12人集めればいいから、すぐにでも開けますよ」

 ひとテーブル6人で、2卓12人。

 一人に100万HKD(1500万円)分のトーナメント・チップを買わせ、優勝賞金800万HKD(1億2000万円)、準優勝400万HKD(6000万円)の大会となる。

 三位以下は、敗者でゼロ。

 いや準優勝者に賞金を出すのも、本筋じゃなかった。

 二位というのは、「敗者の先頭」「負け組のボス」である。

 しかし十二分の一では集まらない客が、六分の一の確率となると集まった。だから準優勝者にもカネを出す。

 参加費をすべて賞金に回してしまえば、良平の取り分はなくなる。

 それでいいのである。

 大会参加者たちは、必ず参加費以上のカネを持ち込み、良平のテーブルで打ってくれた。

 そこで回ったカネ(=ローリング)のコミッションが、『三宝商会』の収入となるのだから。

「皆さん年の瀬はお忙しいだろうから、年が明けで計画してみましょう」

 良平は応えると、ピノ・ノワールのグラスを干した。(つづく)

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PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。