第71回

02年6月12日「サングラス必須」

・引っ越し完了。新しいオフィスは壁がなく、柱の部分以外は全面窓。しかしまぶしくて仕事にならないとスタッフには不評。しまった。営業時間を12時間ずらす(夜の9時から朝の5時まで営業)という案、急浮上。

・僕の席からは夕日がよく見える。それから、とんでもないものが見えてしまうことに気がついてしまった。見ないようにしよう。

02年6月13日「ゾンビではなくアンデッド」

・『バイオハザード』の試写会。会場で高橋名人とばったり会った。超お久しぶり。しばらく大阪に赴任されていたが最近東京のハドソンに戻ってきて、ゲーム開発のお仕事などをされてるそうだ。

・さて映画はハリウッドの一流スタッフ陣が日本発のヒットゲームを題材に制作したものだ。期待を超える出来。主人公が記憶喪失になっている状況から始まることによって、観客をいきなり物語に巻き込んでいく構成。色味を抑え影の表現を曖昧にした映像。などなど、3D-CGゲームが獲得した恐怖演出の手法をうまく取り入れている。ハリウッドは今テレビゲームのことを本気で研究しはじめているようだ。マリオやスト・の映画化の時はなかったことだ。

・そうやって3Dゲームを意識して制作された結果、すごくサイバーな、新しいタイプのゾンビ映画に仕上がっていることも功名だ(ところで僕は映画史上最高の発明品は『ゾンビ』だと思っている……若い人は知らないだろうが『スパイダーマン』の監督だって最初はゾンビ映画でデビューしたんだよ、あ知ってるか)。

・ところで主演のミラジョヴォは『バイオハザード』の熱心なマニアで、1日5時間もやってるそうだ。ゲームは1日1時間、と高橋名人に叱ってもらおうかと思った。

02年6月19日「大人物」

・山本直純さんと会ったことは……と、検索してみたら、出てきた。1度だけ。アマチュアの作曲コンテストの審査員を頼まれたことがあって、その審査委員長が山本さんだったのだ。

・審査会の時。順番に曲を聴きながら審査員全員で意見を出し合っていたのだが、山本さんは最初から最後まで目を閉じておられ、誰が話しかけても一切、返事しなかった。集中してるんだろうなあ、と思ったものだ。そして授賞式の時、審査員席はメインステージの脇に設けられていた。僕は山本さんの隣に座った。
山本さんはまた目を閉じられている。そして大きないびきの音が……。

・受賞作品が次々と発表され、それぞれ審査員一人がコメントしていった。大賞の作品には、山本さんがコメントすることになっていた。曲が流れ、終わっても、いびきの音は止まない。僕は本当にひやひやしていた。

・しかし、司会者に指名された瞬間、山本さんはがばりと起きて、あの大声で「皆さん、山本直純です! 大きいことはいいことだあ!!」と。その一言だけで場の空気をいっぺんに持ってってしまったのだ。

2004.08.31 |  第71回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。