第72回

02年6月19日「不眠」

・『インソムニア』試写。猟奇殺人事件の解明のためロス市警からアラスカの街に派遣されてきた初老刑事(アル・パチーノ)の奇妙な一週間。「白夜」と「不眠症」をテーマにした独特の映像で、刑事の、じわじわと混濁していく意識をうまく現出している(ただし5日や6日眠らないくらいであのパニックぶりはちょっと情けない……日本のゲーマーを見習え、と少し思った)。

・『メメント』の監督の第2作だから必見。と思って観る人が多いはずだが、この企画は『メメント』公開前にスタートしていたらしい。認められて有名になってから撮っていたら、もっと自信たっぷりに、思う存分サイコでフリーキーな映像を展開できたんじゃないかと思う。

02年6月20日「覚醒」

・『ウェイキング・ライフ』試写。昨日の映画と似たタイトルだな。全編、実写をデジタル処理した異様な映像。トびます。一人の少年が、夢か現実か判然としない街をさまよい、様々な人々と会う。自己とは何か。我々はどこから来てどこに向かっているのか。そういう哲学的命題について、誰もがとても個性的な語り口で喋りまくる。そのインタビュー風の映像がCGクリエーターのセンスによってものすごくデフォルメされていく。例えば手の表情の豊かな人は両手が体より大きくなって動く。興奮している人の目玉がどんどん大きくなって顔からはみ出したり、怒っている人は全身が真赤に燃え上がったりする。

・現実の風景を脳ミソはどのように観ているのか。それをデジタル技術によって現出する手法として、特にクリエーターは必見の映画だ。そうして産み出された新しい種類のリアリティーが、日本のマンガ(それも手塚マンガというより赤塚マンガ)に近いものになっていることにも注目したい。

・さて同じ制作者達による、この映画の原形になった実験映像が、3年ほど前、フランスのインディーズCGフェスティバルに出品されていた。CGのクリエイティビティーはインディーズでこそ革新されていくと僕は思っている。ただし若いクリエーターは、実験映像的なショート・ムービーで満足せずに、どこかのタイミングでもう一踏ん張りして長い作品を仕上げるべきだ……この映画のように。そのしつこさが重要だと思う。

02年6月21日「気持ちいい」

・ホームページのリニューアルが忙しい。連載エッセイのコーナーも設置した。設置したら書かなくちゃならない。

・それからハードディスクを掘り起こしていたら未発表のものも合わせショートショート小説が400本以上あった。もう10年近く週1ペースで書いているのだった。これを毎日1本、日替わりで表示することにした。と、なんかそういうふうにコンテンツを増やしてるときりがないので、とりあえずはスリムに始めることに。それにしても、ウェッブって凝り出すといつか人生それだけでいいやって感じになりそうでこわいですな。

・ともあれ事務所やホームページが新しくなると本当に気持ちいいですね。ところで引っ越しの時たんすの裏から『ドリームキャスト発売記念飴』が出てきた。先着1名にプレゼントする。

02年6月26日「ゆめうつし=テレイグジステンス」

・ポケモン映画『水の都の護神 ~ラティアスとラティオス~』試写。今回の舞台は水の都”アルトマーレ”。石造りの古い町の、迷路のような空間を疾走するのは昔のヨーロッパ映画によくあったシーンだが、それを3D-CGで見せる。そして映像的には特に液体の表現が出色。今回はモンスターよりも七変化しながら襲いかかってくる「水」が、主役だ。

・設定としては「バーチャルリアリティー」がポイント。例えば視覚体験を送信する「ゆめうつし」という術が効果的に使われる。テレイグジステンスですね。そして、あっち側の世界から送信してくる映像によって、しまいにはダグラス・トランブルの『ブレインストーム』のような映画になる。

・それから、美少女ポケモン(?)の出現によって、物語は遂に「ポケモンと人間の恋愛」という危うい領域に入りかける。それって獣姦じゃねえのか? なんて言っちゃいけない。

2004.09.07 |  第71回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。