第74回

02年7月1日「気持ちいいけど-1」

・『メフィスト』(講談社)に連載してる小説『怪人21世紀』を書き上げて、入稿。今回メシも食わずに20時間くらい書き続けていたのに、全く疲れていない。しかも気分爽快。なんなんだこの元気は。と思ったらビルが内装工事をやってて、気がつかないうちに事務所にシンナー臭が充満してたのだった。かなりやばい。スタッフはまっすぐ歩いているつもりで壁に激突したり、ドアと間違えて窓を開けて飛び降りそうになったり。今日は打ち合わせをしている時、相手の女性(20代後半の広告代理店社員)がヨダレをたらしていることに気付いた。

・それから、4Fの窓から景色をぼんやり見てると突然外に男の顔が現れて驚いた。幻覚ではなく、窓拭きのおじさんだった。

02年7月2日「気持ちいいけど-2」

・警告として書いているので、絶対に真似はしないで。首吊りってものすごく気持ちいいらしい。シンナーよりも、LSDよりも。性行為の際に相手を絞め殺して逮捕される人がよくいるが、あれは絞めてる方ではなく絞められている方が気持ちいいのだ。それから、首を巻いたタオルをドアノブ等にかけて座り、死なない程度に自分の首を絞め上げながらマスターベーションするとものすごいオルガスムを味わえるらしい。

・ただし、首に体重をかけるその加減がとても微妙で、10回やると1回は死ぬ。これにハマった友人はもうほとんど死んだ。

02年7月3日「山下たろーくんに出てきそうなエピソード」

・『IKKI』(小学館)で漫画家の加倉井ミサイルさんとお仕事をさせてもらってるのでぜひ見てみて下さい。僕、この人の名前も作品も知ってはいたけど、しっかり男性と思い込んでいた。初めてのミーティングの時、美少女がやってきて驚いた。秘書の方かと思ったら、それが本人。

・性別も容姿もバックグラウンドも関係なく作品だけで勝負できる仕事って、かっこいいですね。

02年7月4日「匿名掲示板の今後」

・『2ちゃんねる』はすでにどの雑誌よりもTV番組よりも、当局や大企業にチェックされているわけだ。下手な雑誌よりずっと読まれてるし、どの評論家より政治家より影響力があるのだから当然だ。そして、隙あらば踏みつぶそうとしてくる力も、今後は当然のことだと考えなくてはならない。先日の一審判決はそれを思いきり加速するものだ。

・そもそも匿名掲示板の強みは、巨大であることや強力であることとは相反するのだ。有名になればなるほど、そして圧力と戦えば戦うほど、存在意義は失われていく。じゃあ、どうすればいいのか、というと。負ければいい。負けたふりでもいい。負ければ負けるほど強くなるんだから。

・応援してる人は、2ちゃんねるに、権力と同じ土俵で勝負して打ち勝つことを求めたり、そのための協力をするべきじゃないと思う。今必要なことは、分散と拡大だ。ネットワーク上の空間は、個々の存在は小さくても、有機的にリンクしていくことによって機能を拡げていける。1箇所にまとまって目立つことは、百害あって一利なし。

・この話、長くなりそうなのでまた別の機会に。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。