第251回

2月21日「必殺技はオッパイビンタ」

・『ダブルDアベンジャー』。’60年代から’70年代にかけて、巨乳にこだわって自主制作で無茶苦茶な映画を撮りまくっていたカルト監督ラス・メイヤーへの追悼企画。

・ラス・メイヤーの作品群は、日本でもここ数年の巨乳ブームにのって再評価されている。渋谷のツタヤで特集ブースが出来ていたのにはぶったまげた。今や変態ではなくオシャレのアイテムなのだ。キXXイぶりは一周回ってポップになるわけだ(今の日本の美少女アニメって、海外では、ちょうどこの人の作品みたいなウケ方をしてるんじゃないかなあと思う)。

・本作ではそのメイヤー作品を彩った往年のスター達が多数登場している……ていうか久々に集まってらんちき騒ぎしたかっただけのようにも見える。字幕もいい意味でテキトーというか喋ってもないことをどんどん書いちゃっててすごい。あまりにも下らなくて、終映後、観客席じゅうでしばらくへらへら笑いがおさまらなかった。

・なんて書くと「どれくらい下らないか見てみよう」なんて人がいるものだが、見てしまってから「やっぱり下らないじゃないか」と怒らないように。

2月23日「相米慎二を超えた!?」

・タイ映画『トム・ヤム・クン』試写。あの『マッハ!』チームの新作。もちろんトニー・ジャー主演、そして助演は象。象と戦うわけではなく、さらわれた象を助けるために悪い奴らをやっつけていくのだ。象がすごく可愛らしい。こりゃタイ映画にとって大きな資産かも。そしてプロレス、カポエイラ、インラインスケート……と、格ゲーばりの個性的な敵が次々と現れる。

・タイトルは日本人が「スシ」とか「スキヤキ」とつけるようなものでつまり国際性を狙っているのだろう。もちろん今回もワイヤーなし、CGなし。ここには、伝統的格闘技をベースにしたアクションをゼロから立ち上げようという意図がある。つまりカンフー映画とひと味違う新ジャンルとして、ムエタイ映画を創出しようとしているわけだ。

・その試みはかなり成功している。非常に重い、痛みの伝わる格闘シーンが続く。相手を倒す時、投げ飛ばしてしまわずに関節を決め、逆側に思いっきりへし折ってしまうアクションが特徴的だ。

・4階建ての建物を駆け上がりながら数十人の敵を倒していく4分間の一気長回しシーンがある。多分合成も使っているだろうが、ものすごい緊張感は本物だ。

2月28日「冥土婆の恐怖」

・雪のちらつく中、おなじみ外薗先生が、妄想戦士小野寺先生を連れてバーチァリ庵来訪。

・中野ブロードウェイの脇には昭和の匂いを残したスナックや居酒屋が密集する裏路地がある。なかなかの風情なのである。ちょい萌えオヤジ3人でそこをとぼとぼと歩いていたら、ふと場違いな美少女アニメ絵をめっけた。手描き看板に「メイド一同お待ちしております!」と書いてある……なんじゃコレは……。

・それはモルタル作りの小汚い建物の2階にあった。少しビビりながら暗く細い階段を上る。扉がある。確かに「メイドバー」と書いてある。

・そっとドアを開けてみる。先客は一人もいない。5、6人座れるカウンターと、ソファーが2セット。そして奥に年代物のレーザーカラオケ。ソファ-は染みだらけだ。キープボトルを並べているらしき棚の上に、アニメのポスターが貼ってある。そして壁にはものすごく下手くそな手描きイラストが貼ってある。巨大な「プリン」の絵だ。何故プリン。

・その時……「お帰りなさいませご主人さまぁ!」……と、だみ声を浴びせかけられた。カウンターの奥から、60歳くらいのおばさんが、満面の笑顔でこっちを見ていた。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。