第258回

4月11日「過去形としてのストーンズ」

・『ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男』試写。初期のローリング・ストーンズを描いた映画、だと思い、若い頃のミックやキースを誰がどう演じるのか、みたいなところに興味を持って見る人が多いかもしれないが、スポットライトはブライアン・ジョーンズ一人に当てられる。ストーンズのリーダーでありながら初期に辞め、その後、変死した伝説のロッカー。

・だから全体を彩る楽曲はポップスではない。鬱なブルースだ。僕くらいのおじさん世代でも、ストーンズの記憶はジャガー/リチャーズの、70年代以降の楽曲がメインだろう。しかしストーンズが纏う独自の空気……ビートルズと違う、影のある、爛れた魅力は、本来ブライアン・ジョーンズが焼き印していったものなのである(実は僕その時代のストーンズ、知らねーんだけど)。

・その幻影におけるロックンローラーは、「死」のイメージを抱えてこそ意味があった。20代で死ぬものでなくてはならなかった。60を過ぎてなお巨大ホールですごいパフォーマンスをやり遂げてしまうエンターテイナーではなかったのだ。だから初期のこの決裂には大きな示唆があった。

・彼の死後90日後にチャールズ・マンソンによるシャロン・テート殺人事件があった。炎のような輝きの隣に陰惨な影がある、そういう時代だったのだ。

4月12日「人形アニメ!奇形アニメ!」

・映画ライターの吉田さんの事務所で『 リブフリーキー!ダイフリーキー!』というカルト・ムービーのビデオを見せてもらう。子供が粘土で作ったような歪んだ人形がいきなり歌いながらリアルなセックスをし始める。よく見ると男の方はチャールズ・マンソンそっくりだ。

・グリーンデイ、ノーエフエックス、グッドシャーロットなどのメンバーが声優として参加した人形アニメーション。ミュージシャンが主導で、インデペンデントに、かなり低予算で仕上げたものだろう。造形はものすごい崩れっぷりでコマも粗い。パンクな音響とサイケデリックな照明。昨今の緻密なCGアニメと対局にあるような汚さがかえって生理的にくる。

・70年代からのカルト・カルチャーを踏まえたものなので『チーム・アメリカ』よりはわかりにくいが、音楽ファンにとっては興味深い作品だと思う。メッセージ性とキャラクター性があり、マーケティング展開の可能性のある映像作品を、ミュージシャンが自分で作ってしまう。こういうプロジェクトは今後どんどん出てくるだろう。

4月13日「早稲田歴25年目」

・早稲田大学院の授業開始。デジタル系の学部や大学院はアメリカではすっかり人気がなくなり、激減してしまったらしいが、日本ではまだかなり元気だ。これまであまりやっていなかった産学協同事業をこのあたりから始めよう、という機運があるからだろう。

・早稲田は学部の再編がスタートしている。今まで各学部でばらばらにやっていたデジタル系インフラやコンテンツについての取り組みも、良い形にまとまっていくようである。僕も来年以降は大学院だけでなく学部の授業も行なうことになりそうだし、授業のコマも増やしてもらえそうである。やや長期展望の授業ができるかもしれない。

・これまでは「学問」という枠組みにこだわり、ゲームの歴史やITビジネスの成り立ちを振り返る形で扱ってきたが、今後はデジタルメディアの特性を踏まえた上での近未来予測を主体にしようかと考えている。学問よりは実践を主体に、例えば学生と企業を繋いで起業させてしまうようなことも行っていければいいなあ。

・早稲田の桜もそろそろおしまい。けど散っていく花より新しく芽吹いていく緑の方が美しいと感じる今日この頃。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。