第259回

4月14日「手っちゃん思い出した」

・『インプリント ~ぼっけぇ、きょうてえ~』試写。「マスターズ・オブ・ホラー/恐-1グランプリ」というのは、世界のホラー監督13人に、それぞれ1 本、1時間の作品を創らせるっていうプロジェクト。トビー・フーパー、ダリオ・アルジェント、ジョン・カーペンター……と、すごいメンツである。日本からは我らが三池祟史監督が選ばれた。

・そして三池監督が選んだ原作が傑作短編「ぼっけぇ、きょうてえ」である。ただし主観の位置にアメリカ人記者(ビリー・ドラゴ)を置き、英米の植民地となり英語を使うようになっている日本を設定している。全体が遊郭になっている島。主人公は、異様にして美麗な空間の中で一人の醜い女郎と出会い、一夜をともにすることになる。

・ホラーの領域では今後、ショートムービーがブームになるだろう。素材に成り得る上質な短編は、数多い。ただし原作ものの映画については「オチ」を知られた上で見られることが前提になってしまう。ストーリーについても監督による味付けが重要になってくるわけだ。その点も、さすが三池監督、自分の土俵に誘い込んだ上で戦いきっている。特に最後のあのシーンの解釈には、びびったー。

・ところで『ぼっけぇ……』のオチって、欧米人が不気味に思っている、そんな日本人のイメージと符号すると思いませんか。ナイスチョイス。

4月15日「フィールドワーク」

・『ゲームラボ』イケメン編集者の岩田氏(=写真)と一緒に全国行脚中。今日は鬱病歴2年の若者に会うためだけに北陸の山奥までやって来た。名所旧跡には寄らず地場風俗にも行かずご当地名物も食わず、ひたすら、ひきこもりの人の住む個室を訪ねて回っている。

・「三十才のハローワーク」という連載で、ひきこもり状態でもがいている若い人達の現状をレポートしている。一人一人かなり綿密に取材していくわけだが、そういう人達に出てきてもらうことはできないわけだし、電話でもうまく話が進まない。行く、しかないのである。

・ひきこもりの生活スタイルの中でアンテナを強化して仕事をすること、特にクリエイティブ方面で自己実現をすることは、きっと可能なことだと思う。ただし、今のところ社会的なインフラはまだまだ不足していて、チャンスを逸したり潰されたりしてる人はとても多い。何かのきっかけが作れるといいなぁと思っている。

・ブログも始めた(www.hikikomo.com)ので、ひきこもりの人はチェックして、気が向いたら手を挙げて下さい。渡辺浩弐が部屋までやってくるかもしれないぞ。いらねーか。

4月20日「むしろ父的な」

・『MOTHER3』発売。80年代ファミコンの上に生まれた物語表現形式の、最も正統な進化枝上にある作品。ドラクエもFFも3D化し、脇道に伸びていってるわけだから、これは貴重なシリーズといえる。

・大人の物語である。そして、あえてオタクの神経を逆撫でするような要素がそこかしこに仕込まれている。これって、糸井さん一流の「嫌がらせ」なのかなあと思う(庵野氏がアスカに「気持悪い」と言わせたのと同じ)。……なんて書くと意地悪すぎだよね。ウソです。この作品の本質は、大人の糸井氏が今の若者に向かって送る「存在しない少女や幼女に萌え萌えしてないで、自分で女抱いて子供作ってそんで命がけで守れよっ」みたいなメッセージなんである、の、かもしれない。

2006.04.14 |  第251回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。