第314回

6月8日「おさわりが好きだ」

・DSでは『おさわり探偵 小沢里奈 シーズン2・1/2』を遊んでいる。店頭で「おさわり探偵下さい」と小声で言って買ってきて部屋で密かに遊び始めたらエロゲーでもギャルゲーでもなかった。

・操作はただ画面の中の気になるモノや人やセリフに触るだけ。ぽんぽん触っているだけで先に進んでいくテンポが心地よい。タッチパネルを生かせば、アドベンチャーゲームはすごくわかりやすく気持ちよくなるのである。脳トレくらいしかやったことのない人にもこれなら薦めることができそう。

・アドベンチャーゲーム創生期はパソコン上でキーボードで文字をいちいち打ち込んで遊んでいた。ファミコンのボタンと十字キーだけでいかに操作させるかというところで、アイコン化したコマンドをうまく使うという発明があった。この功績は堀井雄二さんのものだと言っても良いと思う。堀井さんはその延長でRPGをファミコンに持ってくることにも成功したわけである。

・タッチパネルの上ではその時点まで溯ってゲームの操作系を作り直すことができる。つまり、堀井さんが創り出すDS対応のドラクエにはすごく驚かせてもらえると思う所以である。

6月9日「寺山のすすめ」

・ケータイ小説やオンライン小説は、読者と作者の境界が無効になっていくところが面白い。これはテラヤマかもと気づき、久しぶりに演劇情報をサーチ。ザムザ阿佐谷にて、劇団☆A・P・B-Tokyoの寺山版『青ひげ公の城』を観た。70年代末の寺山作品をかなり忠実に再現(それは簡単そうでとても難しいことだ)。そして今観てもちっとも古くなっていないところが寺山修司のすごいところである。

・客席と舞台の境界を、そして日常と演技の境界を壊していく寺山魔術は携帯電話やネットの普及した現在の状況から再評価しておくべきだと思う。

6月10日「死なない人間はいない」

・ブログ形式の試行を兼ねて個人的なことを書いてみる。先日、人間ドックに行った。その後、内臓の潰瘍について再検査に来てほしいと連絡が入った。

・行ってみたら、医者はすぐに精密検査を受けなさいと言う。今やって下さいよと言うと、いろいろと承諾書が必要だしこちらにも準備があるのでと言われた。じゃあいいですと言うとそれじゃ困ります、と。それでちょっと押し問答になり、しかる後にやっと「癌の疑いがあるんですよ!」と言われたのである。ガーン。

・決していい加減な提案ではなく、念のためにデータと写真を3人の医師に回覧し3人ともに危険と判断された結果なのだそうだ。つまり僕がここで精密検査を受けないと、病院としては人間ドックの段階で「癌の兆候を見逃した」ということになりかねない。今はそういう責任が後に厳しく追求される例が多くて、だから必死だったわけである。

・さて、もし癌だったとしたらショックではないと言ったら嘘になるが、良い医療方法を選べば(もしくは悪い医療方法を選ばなければ)10年くらいは生きられるのではないだろうかと考える。僕はもう40代半ばである。10代や20代の人なら、そこまで長生きしたならもういいじゃんと思うくらいの歳だ。それに健康だったとしても、せいぜいあと20年かそこらの命だろう。ならば「あと10年」とか「あと5年」とか、余命をきっちり決め込んでスケジュール組んでやりたいことをやり切る、というのもありだと思う。ところで花菖蒲も咲きましたね。

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PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。