渡辺浩弐の日々是コージ中
第315回
6月14日「オタクを見るな、オタクになれ」
・『ジャパナメリカ』(ローランド・ケルツ/ランダムハウス講談社)日本版が出た。先日のトークショウで講談社BOX太田編集長が強く薦めてくれていた本。「ガイジンさんが見たニッポン」ものは、アニメ・マンガ・ゲーム関連については良書が多い。
・大人のビジネスマンな方々がお仕事の一環としてオタク文化や萌え市場について知ろうとする時、個々のコンテンツに自分でハマってみる人はほとんどいない。彼らはただ表面だけを見渡そうとする。全貌を一緒くたに一気に解説してもらうことを求める。当然、現場の人は作ったり楽しんだりするのに忙しいからそんな要望を無視する。そこで内心ではオタクのことを蔑んでいるような評論家さんやプランナーさんの出番が生まれるわけである。それならばむしろ海外からの声を聞いてみたらどうかと思う。そこから見えてる風景のスケッチが、シーン全体の鳥瞰に有効なのである。
・この本については、そういうくくりに入れたら失礼になるほどリアルな現場視点もある。特に、90年代の不況が若者達の創造性とアイデンティティーを喚起した、という指摘には迫力があった。さて今日、六本木のクラブ「スーパーデラックス」で、その出版記念イベントがあったので覗いてみた。太田さんもいた。著者のケルツ氏と太田氏は既に知り合いのようで、紹介してもらった。ケルツ氏は真性のオタクのようである。
6月16日「少年少女が今必死になれるものとは」
・NHKアニメ作品『電脳コイル』1-6話一挙放映。現実空間と仮想空間が重なる世界を見て育つ少年少女たち。電脳世界で自分を主張するためにどの少年も少女も命がけでハッキングし、街を疾走する。それを「見物」するのかそこに「没入」するのかでこの作品の意味は変わる。
・アニメ作品としては、様々な要素の引用もとを全く隠そうとしていないことに驚かされる。そういうものはプロの技術を使えば意味と意義を変えずに別のものに変容させることができるはずなのだが、わざとばれさせてオタク視聴者を刺激する狙いか。ただしこの手の作品において、勝負どころはパーツとしての設定ではない。長編シリーズとしての牽引力は、サイパーパンキシュな世界観ではなく。電脳世代のコミュニケーションのあり方を描き込むことによって作りだそうとしているように推測できる。
・膨大な情報によって生まれるもう一つの世界。そこで生まれる新しいコミュニケーションネットワークから弾き飛ばされることへの恐怖を、今の小中学生はものすごくリアルに感じている。ある意味では生死に関わることなのだ。それを親の世代がちっとも理解しないことは大問題のように思える(ケータイ取り上げたら解決するなんて言ってると子供たちはどんどん自殺していくぞ)。ケータイSNSのマイページや個人BBSを介した友人関係、援助交際の複雑化、あるいはスクールBBS上での集団いじめ……こういった現象は氷山の一角である。そこに共振していけるような作品になっていくと面白い。
6月19日「押さえつけようとしても噴き出してくる真実」
・よりによって渋谷で大地が噴火するという事件。これをSF的といったら不謹慎のそしりを受けるだろうが、SFがこの事態を予見し警告することができなかったのは残念だったと考える。
・さて、南関東の地下には約4000億立方メートルの天然ガスが埋蔵されている。エネルギー源としては非常に良質な可燃性・水溶性の天然ガスだ。千葉西部で実際に採掘されているのだが、渋谷でもお台場でも真下を掘れば出てくるのである。
・東シナ海の日中中間線付近で中国側が勝手に採掘しはじめてしまった天然ガス田の埋蔵量が推定2000億立方メートルと言われている。その倍の量が僕らの足の下に眠っているのである。もちろん都市部でどんどん掘りはじめたらえらいことになってしまうわけだが、我が国も、その気になればエネルギー自給の方法はいろいろあるってことだ。
・ただアメリカのオイルメジャー経由で石油を買い続けなくちゃいけないことに決まっているから、エネルギー資源の開発はかなりのタブーになる。東シナ海(実は石油もイラク全土とほぼ同量が埋まっているらしい)の状況を指をくわえて見てなければならない本当の理由をちょっと考えてみて欲しい。勝手に掘りやがってと思うと非常にむかつくわけだが、あっちは、つべこべ言ってないであんた側でもどんどん掘ったらいいのに、なんて考えてるのかもしれない。