第320回

7月18日「面白がってれば大丈夫」

・ひらきこもり推奨者としてはユーチューブよりニコニコ動画なわけである。投稿ビデオに視聴者がコメントだけでなくアフィリエートリンクを貼ることができるシステム「ニコニコ市場」が始まった。つまりカットアップされた映像やMADムービーからその本家というか引用もとの製品が売れていくという道筋ができる。

・重要なのは著作権者にメリットが生じることだけではなく、視聴者が感謝やリスペクトの念をリンク作業あるいはそこからのコンテンツ購入によって表せるようになること、そしてそんな状況がある意識変革を喚起すること。例えば電波ソングについてはお布施の意図でここからパッケージを買う人も多くなるのではと思う。

・クリエーターは矛盾しきったしきたりにしがみつくオッサン達のことはもう気にせずにどんどん作ればいい。観客はピンと来たものをどんどんはやしたてればいい。良いもの面白いものは自然と加速して大きくなっていく。

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7月19日「チュウ房」

・『レミーのおいしいレストラン』。見る前に99%の人が予想する全くその通りのストーリー展開。そのぶん映像に集中できるわけだが、しすぎると引いてしまうかもしれない。ネズミの造形や挙動があまりにもリアルで、大群のシーンはスティーブン・キングのパニックホラーのようだ。ネズミ嫌いの人でもミッキーマウスやピカチュウを見て気持ち悪くなることはないわけだが、この映画はちょっと違うかも。

・ディズニー/ピクサーをはじめとするアメリカのアニメーション工房は3D-CG技術力と労力を注ぎ込むことに転換した。つまり作品制作を資本主義的な世界に組み込んでしまったわけだ。この先には、デフォルメーションのセンスで勝負していく道はない。とことんリアルにしていくしかないのである。

・ここで今「ネズミ」をテーマにしたのはすごい勇気だ。ディズニーアニメをミッキーの時点までリセットした、つまり2Dアニメの歴史と決別したということである。ここまで腹をくくって突き進むのならその先に「リアルだけどバーチャル」な表現が生まれていくのではないかと思える。日本のアニメやゲームは体力勝負を避け、2D(的)デフォルメーションの方法論をとことん追求し続けるべきだと思う。

・ところでネズミは本当に美味しいらしい。畑正憲・大先生は「牛肉より美味」と書いていた。

7月20日「ノスタルジーではなく」

・最近の『コミックボンボン』が面白かった。リアルなゴキブリが主人公の須賀原洋行先生『ゴキちゃん』とか。いましろたかし先生と小林まこと先生が猫妖怪もの(『化け猫あんずちゃん』『ガブリン』)でかぶってしまってたこととか。つい最近(昨年末)まで赤塚不二夫先生が連載を持っていて(『天才バカボン』)、巻末コメントまで毎回書いていたという奇跡とか。

・コロコロとボンボンはキャラクターコミック誌というイメージが強いけど、本当の地盤はドラえもんやガンダムではなかったのではないだろうか。劇的に収益が伸びたのは、ファミコンのブームに乗った時である。高橋名人時代はハドソンと、そしてポケモン時代になると任天堂とがっちり組んだコロコロがやはり圧倒してしまった。良くも悪くも作家の育成より作品のプロデュースが重視される傾向は、そのあたりから強くなったわけだ。

・低年齢層向けに新しいコンテンツをアプローチしようという時、今ならゲームメーカーはどんな出版メディアとジョイントしたいと思うだろうか……そういうことを主眼にコミック誌をプロデュースしても良いと思う。オンラインコンテンツも同様だ。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。