第340回

12月7日「灯を点ける時」

・ニワンゴ。杉本社長と会う。一大ムーブメントとなったニコニコ動画の今後などについて聞く。このお祭り騒ぎには明るい未来に繋がるものがある。ユーザーだけでなく各コンテンツメーカーも、今は無条件で応援するべきだと思う。ルールは後から付いてくるはずなのだ。

・回線の確保はかなり大変みたいだ。既に日本の全有効トラフィックの12分の1を使ってしまっているらしい。ただ、僕はこの点は楽観視して良いと思っている。実は日本には使われていない極太回線がたくさんある。80年代のニューメディア政策の成果として、90年代にインフラはかなり先行して構築された。回線に大容量のコンテンツを流すニーズがやっと生まれた今、それを目覚めさせるべきなのである。もちろん再整備も含めて国家施策としてやってもらいたい。こういうところで国力をたくわえておくことが重要なのだ。

12月10日「よくあるパターン」

・マンガ家のTAGROさんとアポイント。3年も前から一緒にお仕事させて頂き、盛んにメールのやりとりもさせて頂きつつ、直接会うのは初めてである。楽しみに待っていたところが、TAGROさん、来ず。結局、担当編集者とだけ打ち合わせ。その内容をそのまま伝えてもらうという形になった。

・ところが夜、別件の飲み会に参加していたところに編集者さんがTAGROさん連れてやってきた。さっき打ち合わせで話した内容をもう一回最初から話して下さいと言う。どうもTAGROさんは、もともとのアポを聞いていなかったようだ。そして当方は酔っぱらっている。そこは飲み屋である。テーブルの上は食いかけの刺身とか毛蟹とか散乱している。そしてこの仕事に全く関係のない人達も同席している。結局、話にならず、日を改めることに。

・良く考えると、これ、先方にしてみたら「いきなり飲み屋に呼び出して仕事の話をしようとする嫌な業界人」そのものである。嫌われただろうなぁ。

12月11日「渡辺浩弐→渡邊浩貳」

・台湾の出版社・全力出版のリン社長、来日。この人とも普段しょっちゅうメール交換をしているので久しぶりという感じがしない。ラノベ、マンガなど各種コンテンツのデジタル化戦略、それに伴ってマーケットを全アジアに拡大する方法論などについて話す。作家としては、そういう動きにのっとって作品のスタイルを変えようという意識はない。多くの情報を集めよく考えることによって、自然と変わっていくものなのだ。

・リンさんには中国語も教えていただいていて、感謝している。例えば「ひきこもり」という言葉の翻訳だって、なかなか難しいのである。

・最近、中文に翻訳された自分の小説を、元の文章を自動翻訳サイトに通して確認したりしている。これが中国語の勉強というより、平易かつ簡潔な文章を書くためのトレーニングとなる。直訳ですらずばりと通じるような文章が、今の時代には求められているのだ。と、いうことに気づいてから星新一さんの文章の熟練度と国際性を今更、再発見。

・台湾の話をいろいろ聞く。気候は暖かくて、情報密度は濃くて、アジア目線の仕事をするための拠点としてとても良さそうだ。日本の、特にこの季節の風情は、捨てがたいけどね。

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PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。