カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第1講・ハイパーインフレーションとはどのようなものか?」

紙幣で遊ぶ子供たち

紙幣で遊ぶ子供たち

 ハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す! 著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。

ドイツで起きたハイパーインフレ


 著名投資家ジョージ・ソロス氏は日本銀行の「異次元金融緩和」により、円相場が崩壊し、破局的な円安に陥ると、繰り返し主張してきました。円の価値が暴落し、極端なインフレが発生するというのです。ソロス氏だけではなく、多くのエコノミストが円相場暴落を指摘し、中にはハイパーインフレーションが起きると主張するエコノミストもいます。

 歴史上、通貨の破局的な暴落の代表的な例が第1次世界大戦後のドイツです。第1次世界大戦で敗北したドイツでは、物価が1兆倍に上昇するというハイパーインフレーションが起こり、経済がマヒしていきます。

 コーヒーを一杯、注文するのに、トラックで札束を運ばなければならないような極端なインフレでした。紙幣が紙屑となったのです。教科書などで、上記の写真のように、子どもが紙幣を積み上げて遊んでいるシーンを見られたことがあるかと思います(この有名な写真はあまりにも、上手くできすぎており、ヤラセと思います)。 なぜ、このようなインフレが発生したのでしょうか。

「巨額な賠償金」では理解できない


 一般的な概説書では、ドイツはイギリスやフランスにより、巨額の賠償金を課せられ、その賠償金不払いを理由に、1923年、フランス軍がドイツの工業地帯ルールを占領、生産がストップしたため、一挙にインフレが進行した、と解説されます。しかし、この説明からは物価が1兆倍に跳ね上がった本当の理由が見えてきません。

 インフレの直接の原因はドイツの中央銀行であるライヒスバンクが狂ったように、紙幣増刷をしたことにあります。ライヒスバンクは第1次世界大戦後、急激に貨幣供給量(マネー・サプライ)を増大させていきます。

 大戦勃発時の1914年の貨幣供給量を1とした時、1922年に100倍の貨幣供給量に達しています。同年後半には、1000倍に達し、1923年には1万倍を越え、それ以降は1000万倍、1000億倍となり、遂には1兆倍に達します。

紙幣増刷からインフレ


 そして、貨幣供給量が増大することに並行して、インフレが進行し、物価も1兆倍に上昇し、ドイツはハイパーインフレに陥りました。ミルトン・フリードマンらマネタリストも主張するように、「インフレーションとはいついかなる場合も貨幣的現象」であり、ルール工業地帯が占領されたことと、インフレとは直接の関係はありません。

 因みに、2016年現在、日銀の「異次元緩和」による貨幣供給量は2013年からの3年余りで、約3倍(約400兆円)に増大したに過ぎません。「異次元」とは言うものの、ヴァイマール時代のドイツと比較すれば、日銀の金融緩和が、いかに常識の範囲内であるかがわかります(つまり、この緩和規模で日本円が暴落するとは考えられません)。

 では、なぜ、ドイツのライヒスバンクは当時、常軌を逸した紙幣増刷をおこなったのでしょうか。次回はこれについて、詳しく解説します。

【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。

世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。

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