カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第22講・シュンペーター『経済成長の3要件』」

 ヨーゼフ・シュンペーター

ヨーゼフ・シュンペーター

ハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す!著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。                   

連鎖するビジネス・チャンス

 
 産業革命は綿織物を安く生産するために、紡績や織布の機械化からはじまり、さらにコスト・カットするため、蒸気機関装置で機械のオートメーション化が進められました。コストを抑え、利益を最大化するという産業資本家の欲求が、変革をもたらしました。そして、この変革は「需要が需要を呼ぶ」という形で、連鎖的に新しい分野での変革に繋がっていきました。

 機械化が進むと、鉄の需要が急速に高まります。そうすると製鉄業に変革が生じ、飛躍的に鉄の生産が増大します。鉄の生産に、木炭の炭素が必要でした。しかし、イギリスでは、森林が不足しており、木炭を得ることができず、製鉄をスウェーデンに頼っていました。木炭の代用品として石炭は不純物が多く、使うことができませんでしたが、18世紀、ダービー父子が不純物を取り除く方法を発明し、石炭を使う製鉄法を可能にしました。この製法をコークス製鉄法と呼びます。

 イギリスはコークス製鉄法により、鉄を自給することができるようになり、18世紀から19世紀に、製鉄業が飛躍的に発展しました。

 蒸気機関動力は工場機械を動かすだけでなく、鉄道や蒸気船などの交通手段にも応用されます。鉄の増産とともに鉄道網が敷かれ、めざましい流通・輸送の改善が生じ、大きな経済効果をもたらしました。蒸気船の実用化は風力帆船のように季節ごとの風向きに左右されることなく、安定的な遠洋航海を可能にし、世界各地の市場を繋ぎました。

 当時のこのような交通発展は交通革命と呼ばれます。交通革命によって、原料を海外から安く運搬することが可能となり、国際分業体制がさらに発展します。イギリスのような製品輸出国はインドの植民地化を進め、現地で原綿を独占的に徴収し、自国のオートメーション・システムによって、インド産原綿を大量に製品化していきます。

 こうして、作られた安い綿製品を自国やヨーロッパ地域をはじめ、アメリカやアジア地域にも輸出し、世界の綿製品市場のシェアをイギリスが奪い取っていきます。

なぜ、イギリスだったのか


 経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、経済成長には「資本の蓄積」、「技術革新(イノベーション)」、「人口増大」の三つの要件が必要であると言っています。産業革命が最初にはじまったイギリスには、この三つの要件が全て揃っていました。

「資本の蓄積」というのはワットの蒸気機関の実用化を可能にさせたような資金とその提供者の存在です。ジョン・ローバックやマシュー・ボールトンら、富裕な産業資本家がイギリスにはおり、「技術革新」を担うワットのような優れた開発エンジニアもいました。

 また、1700年に600万人程度であったイギリスの人口は、ワットが活躍した1770年代には800万人程度に増大しています。こうした人口拡大が大量に生産された製品の大きな購買層となり、マーケットを拡充させていきました。

 フランスやドイツなどの他のヨーロッパ諸国も「人口増大」の条件を満たしていましたが、「資本蓄積」はイギリスのように進んでおらず、ボールトンのような資本提供者やワットのようなエンジニアが存在しませんでした。

 日本が戦後、製造業によって高度経済成長をしたとき、シュンペーターのいう三つの要件が揃っていたことは、産業革命期のイギリスと共通しています。

【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)

世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。




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