世界文化遺産から読み解く世界史【第4回:タージ・マハルVS宇治平等院】

タージマハル(縮小)

タージ・マハル

左右対称の美のかたち

 タージ・マハル(インド)と宇治平等院(京都府宇治市)には、建築物としての対象性が醸し出す美しさ、妙味といった共通性があります。

「マハルの冠」という意味を持つタージ・マハルは、ムガール帝国の第5代皇帝シャー・ジャハーン(在位1628~1658)が、36歳の若さで亡くなった最愛の王妃ムムターズ・マハルのために建てた白亜の霊廟です。その造営には国を傾けるほどの費用がかけられたといわれます。敷地は南北560メートル、東西約300メートルの広さがあり、霊廟は大理石でつくられています。建物は左右対称で、基壇は一辺が約95メートル、高さが約7メートルあり、中央ドームの高さは58メートルもあります。また、四隅にあるミナレットも42メートルの高さがあります。

 これに比べると平等院は規模こそ小さなものですが、建築物としての優雅さ、美的な造形は少しも劣るものではありません。また、浄土教の極楽浄土をイメージしてつくられたという点でも、霊廟であるタージ・マハルと相通ずるものがあります。

 平等院はもともと、『源氏物語』の主人公・光源氏のモデルといわれる左大臣・源融の別荘としてつくられました。 後に摂政・藤原道長が手を入れて別荘「宇治殿」となり、道長没後の1052(永承7)年に、道長の子である関白・藤原頼通が寺院に改めました。さらに翌年には、鳳凰堂の名で知られる阿弥陀堂が建立されています。

 平等院を設計したのは、平等院内に安置されている阿弥陀如来像の作者である仏師・定朝ではないかと私は考えています。平等院鳳凰堂といわれるように、その姿はあたかも浄土に飛んできた鳳凰が羽を広げているように見える設計になっています。まさに極楽浄土をこの世に現出させたようです。

 タージ・マハルも、亡き妃ムムターズ・マハルが生き返った姿をそのまま建築の中に込めたようなたたずまいになっています。これは、霊廟ではありますが、浄土を象徴しているといってもいいでしょう。

 この二つの建築物を見ますと、左右対称の妙による飛翔感を感じます。特にタージ・マハルは白亜の殿堂で、明るい色の躍動感があります。平等院も、微妙な屋根の反りが印象的です。もしもこの反りが横端であったり、平行だったりすれば、重量感こそあったでしょうが、明るさ、軽快さは感じられなかったはずです。ここにも私は、この二つの建築物に共通性を感じるのです。

 平等院の中にある定朝の阿弥陀如来像にも、そのような洗練された表現が見られます。どっしりしたというよりも、非常に優美です。平等院の壁には、52体のさまざまに飛翔する菩薩像、すなわち雲中供養菩薩像が取りつけられています。この52体の小さな浮き彫り彫刻の菩薩像の洗練度は、鳳凰堂の名にふさわしく軽快かつ優雅なものになっています。

 私は、この二つの建築物の中に、インドと日本の美の競演を感じるのですが、それについては、それぞれの前庭にある池の存在が見逃せません。平等院の池は浄土の象徴ですから、日本らしくできる限り自然に近い形になっています。一方、タージ・マハルの池は人工的な幾何学的な方形となっていて、そこには日本とインドの水あるいは自然に対する考え方の違いが見えます。そういう違いはありますが、水を配した白亜の殿堂と、水に浮かぶような美しい鳳凰堂の姿の宇治平等院はよく似ています。水に映ったそれぞれの姿もまた、見る者に強い印象を与えているのです。

 もちろん、両者には木製と石造りという大きな違いがあります。しかし、タージ・マハルに限らず、大陸の建築はほとんどすべて石でできています。これは異民族から攻撃を受けたときに破壊されにくいという理由があると同時に、堅固で規模の大きな印象を与えて権力者の力の大きさを示すためです。

 ただ、タージ・マハルの場合はそれが墓廟であることから、必ずしも石の重厚さ、石の力を誇示しているようには見えません。むしろ、先にも述べた軽快さを感じさせるという点で、木の建築に通じるものがあります。ですから、石と木の違いがあっても、見る者に建築の躍動感を感じさせるわけです。

 私は木の建築こそ本来の人間の建築であるという持論です。本来は、木のほうが人間に近く、建築上も理想的なのです。木材を使うことによって、はじめて人間と自然の調和を感じさせることができます。石でつくるということは、その調和を乱し、自然と相反するものです。それは防御のための堅牢さなのです。

 私たち日本人は往々にして木造であることを質素なものと感じます。それは戦後教育によって植え込まれた価値観といえますが、それが東西の比較を阻む原因にもなっています。この点を、われわれ日本人は反省する必要があるのではないでしょうか。

(出典/田中英道著『世界文化遺産から読み解く世界史』育鵬社

【田中英道(たなか・ひでみち)】
東北大学名誉教授。日本国史学会代表。
著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『[増補]日本の文化 本当は何がすごいのか』『[増補]世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』(最新刊)ほか多数。

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