カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第47講・なぜ、辺境の異民族が中国を260年間、支配できたのか」

清王朝の全盛を担った乾隆帝

清王朝の全盛を担った乾隆帝

ハイパーインフレはなぜ起きた?バブルは繰り返すのか?戦争は儲かるのか?私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す!著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。                   

虚偽の人口統計

 これまで、辺境の異民族満州人が、どのようにして覇権を握るに到ったかを述べました。次に、満州人が、その覇権を260年間の長い期間、維持することができたのはなぜか、ということについて考えてみます。  清王朝は建国当初、特に、富の分配の問題に神経を注ぎました。政権の基盤が脆弱であった異民族王朝の清は、富の分配を正当かつ公正に成し、人々を物質的に充足させることができなければ、早々に倒れてしまうことは明白でした。清は地丁銀と呼ばれる税制をテコに、富の分配に関する経済的な調整を図ります。  明王朝時代の税制は人頭税・土地税の両建てでした。人頭税は人間が生きて存在しているという事実だけで、税金を課すもので、平民・貧民にも容赦なく課税されました。税金を払うことができない民衆は自分達が生きて存在していないことにして、戸籍を届け出ません。  当時、法的にこの世に存在しない無戸籍者が実際の人口の70%はいたとされます。戸籍で届け出られた正式な明王朝時代の人口は6000万人、実際にはその三倍から四倍の人口がいました。  広大な中国全土を王朝もさすがに管理することができず、「存在しない」人間が野放しにされていました。必然的に明王朝の税の徴集は滞り、慢性的な財政難に陥りました。  今日でも、東南アジアやアフリカの途上国で、国家が人民の戸籍を把握できず、徴税が困難となっている事例は見られます。
中国人口動態

中国人口動態

清王朝の時代に入り、18世紀初頭、康熙帝によって人口調査がおこなわれました。しかし、人頭税を課せられることを恐れた民衆は逃げ隠れ、人口調査には応じません。  統計人口は明王朝と同じく、少ないままでした。そこで、康熙帝は思い切って、人頭税廃止を宣言しました。  人頭税廃止の宣言により、民衆は人口調査に応じ、戸籍を取得しはじめます。その結果、18世紀後半の清王朝時代には統計人口が一挙に増えて、3億人となります。  民衆は人頭税廃止を歓迎したのはもちろんのこと、逃げ隠れせず、堂々と市民生活を送ることができ、庶民の生活も活気づきました。  中国において、明王朝だけでなく、それ以前の歴代王朝も全て、正確な人口統計を把握できませんでした。この状況を打開できたのは清王朝が初めてだったのです。

清王朝の税制、応益説か応能説か

 人頭税廃止による税収減は土地税で補われました。土地税は豊かな土地所有者のみを狙い打ちにするもので、土地を持たない平民は税を免れます。  異民族の清王朝が中国を征服したことで、漢人の土地所有者たち(豪族)は自分達の土地が没収されるものと覚悟していました。しかし、清は彼らの土地を没収せず、土地の所有権を認める代わりに、土地税を納めさせました。土地所有者の漢人豪族は喜んで、この方針に従いました。  康熙帝の時代に、既にこうした税制の枠組みが決まり、続く雍正帝の時代に、この税制は地丁銀と命名され、本格稼働します。  地丁銀は土地を持たない大多数の平民に歓迎され、清王朝の支配基盤を強化しました。一方、土地の所有権が脅かされていた富豪たちにも、所有権が保証される地丁銀は歓迎されました。  租税が課される根拠として、主に、応益説と応能説の2つの考え方があります。応益説は、インフラ整備や治安維持などの公共サービスを受益する人々が、その対価として、税を支払うべきとする考え方です。  一方、応能説は、人々がその能力に応じて租税を負担するべきとする考え方で、たとえ、公共サービスを受益していようとも、能力を越えた税負担をさせるべきではない、とします。  清王朝の地丁銀は明らかに、応能説の考え方に基づいています。地丁銀は土地という財産所有に応じて、税を応能負担させ、偏った富を再分配し、格差を是正しようとする税制度でした。社会のバランスを保持する機能を有した地丁銀によって、異民族王朝の清は、貧困層から富裕層に到るまで、広く支持されていきます。 【宇山卓栄(うやま・たくえい)】 1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。著書は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)ほか。
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