長生きできる食習慣(その3)

東城先生・料理教室講義(縮小)

あなたと健康社の料理教室で講義をする東城百合子先生

健康長寿の秘訣とは?

 自然食、自然療法の大家として知られる「あなたと健康社」の東城百合子先生が、先月93歳の誕生日を迎えられた。93歳にして料理教室の講義や月刊『あなたと健康』の原稿執筆など、現役で活躍されている先生に、「健康長寿の秘訣とは何か」をうかがった。  ――東城先生は以前、グルジア(現在のジョージア)へ行かれましたが、その理由は?  東城 約40年前、私はカスピ海と黒海の間の、トルコに近い気候温暖な国・グルジア(当時はソ連に属していたが、ソ連崩壊とともに独立。2015年からジョージアと呼ばれるようになった)を訪れました。それは、この国が長寿国として知られ、その原因が自然食、穀類、ヨーグルトを中心とした民族料理にあるとされていたからです。  長寿者に関する記録や報告を読み、「なるほど」と思ったものの、それは表面に出てきた枝葉です。そこにはきっと、見えない深い根があるに違いない。それが何かをどうしても確かめたいと思ったからです。  ――何か根っこは見つかりましたか?  東城 グルジアの人たちは、生活の中にしっかりとした思想をもって暮らしていました。彼らは自分たちが生きる大地をとても大切にしています。大地というのは「土」です。そこに先祖が眠っていると考えているからです。  人間は死ねばその肉体は土に還ります。肉体は消えても、土となって大地に還り、そこにはまた種がまかれて、新しい「いのち」を育み、次の世代がその「いのち」を食べて育ちます。「死ねば終わり」なのではなく、大地に育まれた「いのち」の中に、先祖の心も残されていくのです。  だから、その大地を絶対に汚してはいけないので、農薬は使いません。自然を大切にし、自然が育ててくれた食べ物、「いのち」に感謝しながら生活をしているのです。  いただいた「いのち」に感謝して、無駄な食べ方はしません。先祖を大切に、心温かく生きているのがグルジアの人々でした。それはかつての日本人の暮らしとも重なるものです。  彼らは年長者を敬い、とても大事にします。長寿者も柔和で気品があり、背筋がピンと伸びていて立派です。長寿国グルジアの人たちは、大地を愛し、隣人を愛し、民族の歴史を守り伝え、誇り高く生きていました(詳しくは『長生きできる食習慣』[育鵬社刊]の3章に述べているので、関心のある方はお読みください)。  ――長寿の人たちに、何か共通することはあるのでしょうか?  東城 長寿者は、海と山が育てた自然のものを調和させながら食べています。それはその地域の伝統食として先祖から伝えられてきたので、「理屈」として頭で知っているのではなく、「体で納得している」のです。今の日本のマスコミが作り出す健康本のように、ただ「○○を食べればいい」という薄っぺらなものとは違います。そこには、「食べる」=「いのちをいただく」という深い思想があるのです。  「身土不二(しんどふじ)」という言葉があるように、大地には、それだけのエネルギーがあるのだから、その土地のものを食べる、ということは大事なことだと思います。  それから、長寿者は明るくて身軽です。その土地でとれた自然のものをいただいて、不便な土地でも工夫をして生活をし、体をよく動かしています。私も玄米食を中心に一日二食で暮らしていますが、彼らはびっくりするほど少量の食事で、元気いっぱい働いていました。今の日本人は「食べ過ぎ」です。  ――東城先生も93歳ですが、まさに健康長寿です。その秘訣は何でしょうか?  東城 喜んで食べる。おいしくいただくことです。これも「理屈」ではありません。だから「~しなければならない」ではダメ。もっとおおらかに、「いのち」を養ってくれる食べ物に感謝しながら、大切にいただくことです。  食べるということはお天道様がくださった自然の恵みをいただくことだから、「いただきます」は、お天道様への感謝の気持ちです。「ごちそうさま」は、それを作ってくださったお天道様、農家や漁師の人や、料理を作ってくれた人に対する感謝の気持ちです。これは礼儀作法ではなく、日本人の心です。自分が育てていただいたら、その恩返しをする。それは人間に対してではなく、天に対してです。こうしたことを、これからの若い人たちも、生活を通して次の世代へと伝えていってほしいと思います。  93歳になっても、「何やってんのよ、あなた」なんて、今でも料理教室に来る生徒さんたちを叱っています。でも、叱るということは、「愛」がなければできないことなんです。家庭でも、「理屈」で叱るのではなく、「愛」で叱るならば、子どもはちゃんと育つものです(談)。 東城百合子(とうじょう・ゆりこ) 自然食・自然療法の大家として知られる。大正14年岩手県生まれ。昭和17年当時日本の栄養学の草分けだった佐伯矩博士に師事、栄養士となる。昭和24年重症の肺結核となったが、自然療法によって自らの病気を克服。それをきっかけに健康運動を始める。世界的な大豆博士といわれ、当時国際栄養研究所所長、世界保健機関理事のW・Hミラー博士に師事、自然の栄養学を学ぶ。昭和35年には沖縄に渡り、全島に健康改革の灯をともした。 昭和39年沖縄より帰京、東京に居をすえて、出版活動、自然食料理教室、栄養教室、生活塾、講演活動、健康運動に力を注ぐ。昭和48年5月、月刊誌『あなたと健康』(あなたと健康社)を出版し、以来、出版活動と共に運動を進め、今日に至る。その確かな理論と実績に、全国から勉強に訪れる人が多い。 著書に、広告・宣伝もなしに口コミだけで売れ続け、100万部を突破したベストセラー『家庭でできる自然療法』(あなたと健康社)をはじめ、『食卓からの健康改革』『心を育てる子どもの健康食』(以上、池田書店)、『お天道さま、ありがとう。』『かならず春は来るから』(以上、サンマーク出版)、『食生活が人生を変える』『自然療法が「体」を変える』『食生活が子どもの人生を変える』『「免疫力が高い体」をつくる「自然療法」シンプル生活』『生きた実例と手引き「自然療法」』(以上、三笠書房)、『健康になる食べ方 幸せになる生き方』『長生きできる食習慣』(以上、育鵬社)などがある。
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