マケドニア加盟が示したNATOという最強の集団安全保障

<文/グレンコ・アンドリー『ウクライナ人だから気づいた日本の危機』連載第18回>

NATO、マケドニア加盟承認へ


 北大西洋条約機構:North Atlantic Treaty Organization(NATO)は、第二次世界大戦後、東欧諸国の共産化を背景とした東西対立の激化の中で設立した。

NATOの目的は、
1)国連憲章の目的及び諸原則に従い、
2)自由主義体制を擁護し、
3)北大西洋地域の安定と福祉(well-being)を助長し、
4)集団的防衛並びに平和及び安定の維持のためにその努力を維持すること、
とされている(「北大西洋条約」前文)。

北大西洋条約機構(NATO)加盟国(2019年2月末現在)



 加盟国は現在29カ国だが、2019年2月6日、新たにマケドニアの加盟を承認する議定書にNATO加盟国が署名し、来年初めには正式加盟となる見込みだ。NATOへの新規加盟は2017年のモンテネグロ以来となる。マケドニアが加盟すれば、今年で創設70年を迎えるNATOは30カ国体制となる。

NATOの歴史


集団安全保障とは


 国家安全保障、つまり平和維持には、自国の軍事力が最も大事である。続いて二番目に大事なのは集団安全保障だ。『ブリタニカ国際大百科事典』によれば、集団安全保障とは、「関係諸国が互いに武力行使をしないことを約束し、約束に反して平和を破壊しようとしたり、破壊した国があった場合には、他のすべての国の協力によってその破壊を防止または抑止しようとする安全保障の方式」ということである。

 この定義は正しいが、充分ではない。補足説明が必要である。一つは、集団安全保障体制は、構成諸国が防衛政策に関しては共通の認識を持ち、共通の価値観を持っていることが非常に大切だ。それがなければ、集団安全保障は形骸化してしまう。

 もう一つは、集団安全保障の組織は国際条約に基づき、構成国の権利と義務や加盟の条件が明記されることが重要だ。構成国が多すぎて価値観が異なったり、または構成国の義務が明確ではない場合は、集団安全保障は機能しなくなるのだ。

国際連合はなぜ世界の平和を守れないのか


 機能していない形だけの集団安全保障組織の一つとは国際連合である。国際連合には世界のほとんどの国が加盟している。当然、それぞれの国の価値観や外交に対する姿勢は違う。国際的な約束や人権に対する基本的な考え方すら、真逆の国が多い。

 例えば、日本と北朝鮮はどちらも国連加盟国であるが、この二国の人権や国際法に対するスタンスが異なっていることは言うまでもない。考え方が真逆の国が多く混在している組織が、機能するはずがない。結局、国連の本来の目的は国際紛争の防止や侵略を犯した国の処罰であるにもかかわらず、この役割を一切果たしていない。

 さらに、国連は第二次世界大戦の戦勝国に「拒否権」という不当な特権を与えているので、このような不平等で差別的な原理に基いて構成された組織が機能するはずはない。従って国際連合とは、まったく何の意味もない、形骸化した組織である。今後、国連の根本的な構造改革、再構築が必要であるが、それは本書のテーマではないので、ここでは言及しない。

NATOはなぜ平和を維持できるのか


 一方、きちんと機能している集団安全保障組織もある。世界で最も成功している組織は、北大西洋条約機構(NATO)である。国連と違って、NATO加盟国は皆、基本的な価値観を概ね共有できている。当然、国際条約に基いた組織であり、さらに、加盟手続きや、運営、加盟国の権利と義務、そして組織の行動原理は明確である。だからNATOは70年間その役割を果たし、実際に国際平和維持に貢献してきた。

 NATOの根本的な行動原理は、次のことに尽きる。

 「加盟国の一国が武力攻撃を受けた場合、それは全加盟国への攻撃と見なされ、全加盟国が反撃する」

 この原理はまさに集団的自衛権に基くものである。NATOは集団安全保障の組織であると同時に集団防衛の組織でもあるということだ。お互いを攻撃しないということだけを約束する条約であれば、第三者が加盟国を攻撃した場合は、他の加盟国はそれを見捨てることができる。

 しかし、NATOは加盟国同士がお互いを攻撃しないというところに留まらない。加盟国が第三国からの攻撃を受けた場合でも、他の加盟国がそれを守るようになっているのだ。世界のさまざまな集団安全保障組織の中で最も効果的な組織は紛れもなくNATOである。

 NATOは1949年に成立したが、それ以降、NATO加盟国の領土は一度も武力攻撃を受けたことがない。多数の国家が加盟する同盟で、加盟国の領土が70年間「一国も、一度も」武力攻撃を受けたことがないというのは、歴史的に稀な事例である。この事実は、NATOがいかに平和維持に貢献しているかを最もよく表している。

 NATOが現実に機能している理由は、世界一強い軍事力を保持しているからだけではない。加盟国の領土が攻撃を受けた場合は、その軍事力を実際に使用するという姿勢を、世界に向かって常に見せているという点なのだ。

厳しいNATOへの加盟基準


 多くの国はNATOに加盟することを望んでいる。NATOは12カ国で発足したが、現在は29カ国に増加している。NATOに加盟しておけば、自国の安全が確実に保証されるということを多くの国が分かっている。だから、NATOに加盟したい国が増えているのだ。

 しかし、NATOに加盟するのは容易ではない。さまざまな厳しい加盟基準がある。例えば、加盟を希望している国は、他国との間に領土問題がないこと、軍隊の組織がNATOの基準を満たしていること、民主主義、個人の自由や法の支配が守られていることなどの条件がある。

 そして、新メンバー加盟の際、現加盟国すべての承認を得なければならない。つまり、29カ国中、28カ国が加盟に賛成しても、一国でも反対すれば新メンバーは加盟できないのだ。
このルールは、すでに形骸化しているのではないかと思う人もいるであろう。「全会一致なんて形式に過ぎない。実際はアメリカの圧力があればみんなしぶしぶと賛成するだろう」。しかし、この全会一致ルールはきちんと機能しており、実際に加盟できない国もある。

マケドニアの加盟に反対していたギリシャ


 最も有名な事例は、冒頭に挙げたマケドニアの加盟だ。マケドニアは昔からNATO加盟を望んでおり、そのために多くの努力を重ねて、厳しい加盟基準を全部満たしてきた。しかし、それでもマケドニアはずっとNATO加盟ができなかった。

 なぜなら、一国だけ反対している国があったからだ。それがギリシャである。反対の理由は、ギリシャ国内に「マケドニア」という名の地方があり、同じ名称であるマケドニア共和国の改名を要求してきたからだ。

 ギリシャは昔からマケドニア共和国の国名変更を要求してきた。もちろんマケドニア共和国からすれば、そのような要求は無茶であるので、今まで拒否していた。しかし、今はNATO加盟が関わっている。ギリシャはNATO加盟国という立場を利用して、マケドニアの国名変更をNATO加盟の条件としているのだ。

 他の加盟国からすれば、すべての加盟基準を満たしたマケドニア共和国の加盟を拒否しているギリシャの要求は、理不尽に見えるだろう。だからアメリカやイギリスがギリシャに圧力をかけても、おかしくない。

 しかしルールはルールだ。強大な国の意向だけで物事が進んでしまえば、いずれ他の加盟国の不満が溜まり、同盟関係は成り立たなくなるであろう。だから外から見たら理不尽なギリシャの要求であっても、他の加盟国は認めざるを得ない。

 2018年にはギリシャとマケドニアの名称を巡る争いを解決する糸口が見えてきた。長年にわたる議論の結果、マケドニアが国名を「マケドニア共和国」から「「北マケドニア共和国」に改名するということでギリシャと合意に達したのだ。

 国名が変更された後に、ギリシャは拒否を取り下げ、マケドニアはNATOに正式に加盟する予定だった。しかし、両国の中にはこの妥協案への反対の論が根強かった。マケドニアでは10月に国名変更の国民投票が行われ、賛成票が9割にのぼった。しかし投票率が50%に満たず、不成立となってしまった。

 それでも、やっと2019年1月には国名を北マケドニア共和国とすることが決定し、2月12日に改名が発効した。マケドニアはギリシャを含む加盟国による議定書の批准手続きを経て正式加盟する。AP通信によると、各国の手続きは来年初めまでには終了すると見込まれている。

「NATOの行動は全会一致で決まる」ルールは機能している


 もう一つの事例は、キプロスの加盟だ。キプロスは既にEU加盟国であり、国の諸制度はNATOの基準をおおよそ満たしている。しかし、キプロスは領土問題を抱えている。本来、領土問題を抱えている時点でNATO加盟条件に抵触しているが、実際は、それでももし全加盟国が支持すれば、加盟は理論上、可能である。その場合は、恐らくNATOによる防衛義務は、「その国が加盟の時点で実際に実効支配している領土に限る」という条件になるであろう。

 しかし、「新メンバーの加盟は全会一致で決まる」というルールだけは絶対的である。だから、領土問題を抱えているキプロスであっても、その加盟は例外として認められる可能性はあった。だが実際はキプロスは加盟できない。なぜなら、NATO加盟国のトルコがキプロスの加盟に反対しているからだ。このように、加盟国の一国だけの反対で、他の加盟国が全員賛成していても、新メンバーは加盟できないという事例は、現在までに二つもあるのだ。

 なぜこれらの例を挙げたのかというと、NATOの本質をより鮮明に表すためだ。一つは「NATOの行動は全会一致で決まる」というルールは建前ではなく、現実的に機能しているということだ。先述した事例からそれは明らかである。

 もう一つは、NATOは本当に安全な組織だから、多くの国は加盟を強く望んでいるし、望んでいても加盟できない国もある。それどころか、マケドニアのように、NATO加盟のためなら、自国の国名まで変更することを容認する国もあるほどNATO加盟は魅力的なものだということである。

集団安全保障で「第三者同士の戦争に巻き込まれる」論のウソ


 集団安全保障について、もう一つの大きな誤解がある。それは、「第三者同士の戦争に巻き込まれる恐れがある」というものだ。しかし、NATOの事例を見ればこれも嘘であることは明らかだ。既に70年間も存在しているNATOだが、その加盟国は一度も第三者同士の戦争に巻き込まれたことがない。なぜか。

 集団安全保障の原則では、加盟国の領土が武力攻撃を受けた場合、他の加盟国は攻撃を受けた国を守る義務が生じる。しかし、逆の場合は、その義務はない。つまり、もし加盟国が第三国を攻撃した場合は、他の加盟国はそこへ参戦する義務はないということである。

 さらに、もし加盟国の軍や民間人などが、当該国の領土の外で武力攻撃を受けた場合であっても、他の加盟国はそれを守る義務はない。具体的に言えば、アメリカ軍がNATO領域の外で戦う場合は、他の加盟国は参戦する義務はない。また、もし仮にアメリカの軍艦は公海において武力攻撃を受けた場合であっても、他の加盟国がそれを守る義務はない。

 実際にNATOが創立されてから、アメリカは何回も戦争している。ベトナムやイラクだけではなく、ソマリア、ユーゴスラビア、アフガニスタンなどでも何らかの形で戦いに参加している。しかし、それぞれの戦争に参戦しなかったNATO加盟国も多い。アメリカがNATO領域の外で戦う場合は、そこに参戦するのは他の加盟国の自由意思であり、それをアメリカは強制できないし、今までも強制してこなかった。

 だからNATOのしくみや今までの歴史、両方に基いて断言できる。集団安全保障の組織に参加しても、同盟国の領土が侵されない限り、同盟国と非同盟国の戦争に巻き込まれる恐れは一切ない。だから、「アメリカの戦争に巻き込まれる」という主張は、何の根拠もない完全な嘘なのだ。

 以上のように、ヨーロッパ・北大西洋地域の平和はNATOによって守られており、NATO加盟を多くの国は望んでいるのである。

【グレンコ・アンドリー】
1987年ウクライナ・キエフ生まれ。2010~11年、早稲田大学へ語学留学で初来日。2013年より京都大学へ留学、修士課程修了。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程で本居宣長について研究中。京都在住。2016年、アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門で「ウクライナ情勢から日本が学ぶべきこと――真の平和を築くために何が重要なのか」で優秀賞受賞。3月に初の著書『プーチン幻想 「ロシアの正体」と日本の危機』(PHP新書)を刊行予定。

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