世界文化遺産から読み解く世界史【第70回:偶像崇拝を禁止したイスラムの文化】

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サマルカンドのレギスタン広場(ウズベキスタン)

偶像崇拝を禁じた影響

 イスラム教は偶像崇拝を禁止しています。ですから、ムハンマドの像も、アッラーの神像もありません。そのため、その教えを言葉で理解させようとします。その建築もコーランに記された神の言葉を書いた文字装飾や植物装飾が多く、具体的な人間像は描かれません。    ですから、例えば、サマルカンドでイスラム建築を見るために、レギスタン広場に行くとすると、三つの神学校の壮大な建築がミナレットとともに並んでいるのですが、偶像がないことに物足りなさを感じるのです。  それは単に、偶像崇拝が禁止されているために美術がないということだけではなくて、個人というものの表現がないという感覚です。そこには個人主義、あるいは人間のありのままの姿に対する否定というものがあると感じざるを得ないのです。これは偶像崇拝を禁止しているということの中に、個人的な人間の思いや感情を無視しているという一面があるのです。このことは非常に重要なことで、美術がないということは、人間の寛容の精神や、人間を見つめる精神がないということも示唆しているようです。    イスラムでは共同宗教的な面が強くなりすぎてしまい、アッラーの神のいうことをきけばそれでいいということで、自己反省や自己洞察に欠ける面がどうしても出てきてしまうように思われます。常にアッラーの神のみを仰ぐという、そういう心理構造になってしまうのです。  そこには美術がないことでわかるように、文化の一面の欠如があるといわざるを得ません。ある種の単調さを免れ得ないのです。したがって、イスラム文化が、キリスト教文化や仏教文化ほど語ることが多くないということになるのです。  植物模様や文字装飾が多いのは、結局、そういう人間性の欠如という面に通じるのです。これが重要なことで、イスラム文化は、科学や数学などで、先駆的なものを生み出しましたが、人間的な文学、文化が必ずしも豊かではないということに通じます。  ですから、ヨーロッパにイスラム文化が大きな影響を与えたわけですけれども、それは物質的なものや、技術的なものが中心で、一言でいうと分析的な態度であると思います。それがイスラム文化の特徴だろうと思います。    また、イスラム原理主義者によってしばしばテロリズムが引き起こされていることにも、イスラム教だけを信じるという彼らの共同体性が強く反映していると思われます。人間的要素が希薄になる傾向があるともいえるでしょう。    一方で、イスラム教は、国を超え、民族を超えて、その文化がインドネシアやフィリピンにまで広まっています。それは、イスラム世界の同一性の高さと、受け入れやすさがその要因であろうと思います。コーランの教えが人々の心に訴えやすいということもあるのでしょう。 (出典/田中英道著『世界文化遺産から読み解く世界史』育鵬社) 【田中英道(たなか・ひでみち)】 東北大学名誉教授。日本国史学会代表。 著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『[増補]日本の文化 本当は何がすごいのか』『[増補]世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』『日本文化のすごさがわかる日本の美仏50選』『葛飾北斎 本当は何がすごいのか』『日本国史』『日本が世界で輝く時代』(いずれも育鵬社)ほか多数。
日本が世界で輝く時代

世界各国が混迷を深める中、今キラリと輝いているのは、日本の長い歴史と文化である。“いぶし銀"のような実力と価値。新時代のグローバル・スタンダードとしての日本的価値を縦横に論じる。

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