日本を本当に豊かにするためのプロジェクト③

1964年の英語版路線図

1964年の英語版路線図

「スープラ」を規定する「インフラ」

 マルクスは、各種資源の空間分布や気候風土などの自然的条件に加えて、人為によって作り上げられる「物理的交通」の状態が、その地の「生産」のありようを決定付け、その生産のありようが経済のありようを決定付け、そしてその経済のありようが社会のあらゆる構造を決定付けている、と論じている。  例えば、明治初期のわが国の大都市はいずれも、江戸時代に最大の物流システムとして機能した「北きた前まえ船」の港町であった。  ところが、今日の政令指定都市は(札幌市を唯一の例外として)、新幹線ネットワーク沿いに位置している。そして、かつて北前船の港町として栄えていたものの、長らく新幹線が接続されなかった函館や金沢、富山などはいずれも、政令指定を受けない規模の都市へと凋ちょう落らくしていったのである。  こうした歴史的経緯はまさに「物理的交通」というインフラ構造が、日本の国土利用の形態を決定付けていることの証左そのものだ。  そして今日においても、北陸新幹線が開通して以来、金沢、富山は大いなる経済効果を被っている。同様に、九州新幹線が開通した鹿児島も熊本も大いに活気づき、駅前を中心に民間投資が誘発され、オフィス立地も雇用も人口も活性化されている。  あるいは、高速道路の圏央道が開通した沿線には実に多くの工場立地が進み地域経済が確実に活性化しているし、大規模な港湾が整備された鹿島港周辺には大きな民間投資が活発に進められ、何もなかった地に臨海工業地帯が形成されている。

河川整備によっても都市は繁栄した

 ただし、地域社会を決定付けているのは、何もこうした物理的交通インフラだけではない。今日の東京の繁栄は、徳川家康による利根川東遷事業がなければあり得なかった。  同様に、江戸時代の安治川開削による淀川がわ治水、同じく江戸時代の大和川付け替え工事がなければ、今日の大阪の繁栄もなかった。  そもそも関東平野も大阪平野も、河川の氾濫によって作り上げられた平野なのだから、定期的かつ高頻度で河川が氾濫するのも当然だ。  関東平野も大阪平野も、そのままにしている限り現代文明都市を築き上げることなど不可能な場所なのである。だから今日の大阪や東京の繁栄は、治水のためのインフラ事業で、その地の国土=インフラを作り替えたことではじめて実現可能となったのである。  つまり、交通や河川のインフラが、スープラとしての経済、社会、政治、そして文化、文明に対して支配的な影響力を保持し続けているのは、否定しがたい歴史的、かつ、現代的真実なのである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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