俺の夜
月になれば立春があり、暦の上では春になる。とはいえ、2月は一年で最も寒い時期であるのは、誰でも知るところである。寒さが大の苦手な私にとって、この時期は一年で最も過ぎ去ってほしい時期でもある。
夜遊び仲間であるT先輩から「浅草に夏があった」という意味深なLINEが届いたのは、東京で雪が舞った1月のある日のこと。これまでもT先輩のオススメはハズレたことはない。とにもかくにも浅草へ。駅を出て、スマホ片手に路地を曲がると怪しい光に照らされたビキニ姿のマネキンが目に飛び込んだ。そう、ここがお目当ての店、「CocoPine」である。
ビキニとアロハで常夏気分が楽しめる!
「いらっしゃいませ~」と出迎えてくれたのは、ビキニとアロハのかわいコちゃん5人組。思わず、カーッ! と年がいもなくアガってしまい、その勢いのまま生ビールとキャストの5人に振る舞い酒を注文して「乾杯!」のゴングを鳴らしたのであります。 もはや夜の店では定番となった、感染予防のアクリル板。このアクリル板越しの“エア乾杯”も夜遊びの新様式。最初は違和感があったのだけど、安心安全、清潔、除菌は夜の店では必須項目だ。加えてこちらのお店は水着ガールズバーである。強調できる胸の谷間も必須項目。グラスのビールが揺れるように、目の前でプルプルと揺れる谷間を眺めながらの酒はなんとも旨い。
「やっぱり、女のコの採用基準はプルプルしてることなの?」とママのまなチャンに聞くと、
「水着でいけるぞ!って思ってるコを採用してるから、そこは必然的に……ですね(笑)。あとは海が好きとか、そういうノリが好きなコばっかですよ~」
アゲアゲ気分で乾杯!
そしてもちろん、ココで働くならばお酒が大好きというのも必須項目だ。ビキニギャル5人の飲みっぷりは、言うなれば“爽快な夏”の感じで、一緒にいるだけで気分はどんどんアガっていく。
しかしながらこのご時世である。大声で喋って笑って飛沫を飛ばすのはご法度だ。節度を持って……そう、節度を持って常夏の浅草を堪能したのであった。 「最近は地元の常連さんが来るくらいだから、早くコロナが落ち着いてほしいですね」とはオレンジ色のアロハが似合う、飲みっぷりのいいゆかチャン。早くコロナが落ち着いてほしいなぁ……。真冬でも常夏気分で店を後にしたのであった。
【Coco Pine(ココパイン)】
住:東京都台東区西浅草2-25-15ブランシール浅草1F
電:03-5830-6400
営:20時~ラスト
休:年中無休
料:60分3000円(飲み放題)税サ別
※営業時間の変更などがあるかもしれません。最新情報はお店までご確認ください
取材協力/T先輩 撮影/赤松洋太
2021年に入り、2度目の緊急事態宣言。新年会もままならず、一人飲みの夜を過ごしているスパムです。夜の飲食店も時短要請で苦境に立たされているなか、昨年5月に誕生したウェブサービスが「オンラインスナック横丁」だ。
日本全国だけでなく、なんと海外(!?)も含めた約40店舗のスナックにリモートで遊びに行くことができる。遊び方は、「一対一」「ほかのお客と相席フリー」「仲間でグループ貸し切り」と好みの飲み方に合わせてチケットを購入。予算は1時間3000円程度と明朗会計なのも嬉しい。早速、オンラインスナックでハシゴ酒を楽しんだ。モスクワから銀座まで贅沢な飲み歩きが可能
1軒目に選んだのは山形県にある「Lounge華美」だ。さっそく「山形さ、ようこそ~!」とバリバリの山形弁で接客してくれたのはあみママ。こちらは実店舗も営業しているので、ほかのお客が盛り上がる声を聞きつつ、用意したお酒でリモート乾杯!
あみ「自粛中、当時はオンライン営業だけしったっけがら、こうして店さ出向いで酒飲んでっど、こだい(こんなに)疲れっけがぁ~って、体もテンションも元さ戻るまで大変だっけず~。しかも、今年はほんて(本当)雪うがくて(多くて)車の雪下ろしやら、除雪すねどいげねがら、店さ行くまで苦労すっけはぁ~」一部何を言ってるのかわからないが、茨城県出身のスパムにとってなんとなく親近感が湧く。オンライン営業を始めて、全国からお客さんが訪れるようになったとか。
あみ「こないだは『東京さ、来たことないべ。夜景さ見せたいからドライブしよう』って、それで1時間が過ぎちった人がいて(笑)。『あなたの山形弁を聞いて元気がもらえた』って、お店に菓子折りが届いてたこともあったな~」
日頃の悩みをママに笑い飛ばしてもらうだけでも気分転換になる。
【Lounge華美】
住:山形県寒河江市本町2丁目1-7江戸寿司ビル2F
電:0237-85-7661
料:コース料金は一対一が60分/5500円、フリー60分/3300円など
山形弁のママと楽しんだ直後にモスクワのママにロシア情勢を聞く
続いては、なんとロシアのモスクワにある「BAR清水」。昨秋まで純和風スナックとして営業をしていたが、コロナの影響で閉店。今は自宅でオンラインスナックをしている。
恵美子「モスクワはワクチンが出回り始めて、65歳以上のお年寄りは外出禁止の要請があるけど、若者の自粛ムードはゆるいですね」
さらに「今日は反体制派のデモ中なの」とリアルな世界情勢が知れる。実店舗があった頃は、日本人の駐在員や日本から出張で来たビジネスマンで賑わっていたそう。
恵美子「ほとんど知り合いもいない状態からスタートして、今はアメリカやインドなどにいる日本人の駐在員をはじめ、世界中からアクセスが来るのでありがたいです」スコッチを片手に海外で闘うママの話を聞いているだけでも面白い。コロナが落ち着いたら、お店の再開に向けて動きだす予定だ。
恵美子「ロシアはアニメやマンガなどサブカル人気が高くて、『日本人の彼氏が欲しい』ってロシア人女性が本当に多いんです。一度訪れた方は口を揃えて、『ロシアは最後の楽園だ』って言いますね」【BAR清水】
住:モスクワ初の純和風スナック。オンライン営業のみ
料:コース料金1人60分/2800円(2人は5000円)
インスタ(@shimizu_moscow)
普段は行けない銀座の高級店にだって行ける!
最後は東京だ。シメに選んだのは銀座の「お茶屋バーいろ葉」。普段はハードルが高くて、飲みに行けないエリアでも料金が明朗なので、気軽に利用しやすい。「オンラインならではのお客様も多いですね」と話すのは、銀座で働いて15年超のみづほママ。
みづほ「普段は銀座に来ない若い方がお試しで来られたり、奥さまが予約して、ご夫婦で利用される方もいます。晩酌を楽しむ雰囲気で銀座の美味しいご飯屋さんやスイーツの話で盛り上がりましたね」それぞれの店舗にはオリジナルのオプションがあり、追加オーダーをすることで、いつもとは違う飲みの場を演出することも可能だ。
みづほ「ウチは私が日本各地の地酒やお取り寄せグルメに詳しいので紹介したり、お酒が飲めない方向けにお茶を点てたりもします。オンラインならではの付加価値を楽しんでもらえるようなメニューも体験してもらいたいですね」
【お茶屋バーいろ葉】2月22日には新店舗「銀座いろ葉」がオープン
中央区銀座7-7-19ニューセンタービルB1
電:03-6263-8040
コロナ禍で生まれた新しい交流を堪能して、すっかり旅行をしたような気分に浸る。コロナ明けに実店舗のあるスナックなら再訪するのもありだろう。次回の飲み歩きリストを作りながら、いつの間にか寝落ちしていたスパムでした。
2度目である。我々夜の生活者にとって今回の「緊急事態宣言」は死活問題。果たして街はどうなってしまうのか。狭いアパートでじっと手のひらを見ていると、夜遊びガイドのO氏からのLINE。「アキバが今すごいんです、とにかく来てください」と興奮のご様子だ。
東京中の女のコがアキバに集結!?
日が傾き始めた1月の夕刻、秋葉原でO氏と合流。一緒に街を流すと、これが宣言下か?と思うほど人が溢れ、メイドやコスプレをした女のコが愛想を振りまいていた。「メイド通り」と呼ばれる通りには、去年までなかったアキバ初の「無料案内所」までできている。氏曰く「コンカフェ、メイド喫茶専門の案内所」なのだとか。新宿、池袋などの繁華街の景気の悪化と反比例するように、この街はコンカフェの出店ラッシュに沸いており、活況なのだという。
「去年180軒だったのが、今年1月で270軒に増えています。東京中の女のコが集まってきてるんじゃないかと思うほどですよ」
そう言うO氏だが、今日は気になる新店があり、偵察したいそう。
現実と妄想世界の間でシチュエーションプレイ
中央通りの一本裏、ひっそりとした雑居ビルにコスチューム姿の女のコがどんどん吸い込まれていく。追いかけるようにエレベーターに乗り、停止階で降りるとカウンターだけの小さな店があった。
カウンターのなかにはメイド服姿の女のコ、はて? 普通のメイド喫茶ではないか。席に着くと、メイドのひとり、いのりちゃんが店のコンセプトを説明してくれる。「今日迷い込んだのは、現実世界と妄想世界の間にあるカフェです。自分の殻を破らないと絶対に楽しむことができませんよ!」
目の前に出された一枚の紙。聞けば、女のコに好きな衣装を着せることができ、女のコはその衣装に応じて“シチュエーションプレイ”をしてくれるという。 ナースなら「患者とナース」、OLを選べば「部下と女上司」といった具合に、計12種類のコスチュームとそれぞれの設定がある。
ナースとOLは鉄板。変わり種として「特攻服」がある。「河川敷でぼっち男子がヤンキー女に声をかけられる」という設定だ。一体なにをされるというのか? O氏はOL、俺は特攻服を選択。メイドたちは微笑んで、カーテンの奥に消えた。待つこと3分。
タイトなOL服に身を包んだいのりちゃんがO氏に尋ねる。
「すいません、パソコンが苦手で企画書がうまく書けません……」
弱々しく言い訳をするO氏を叱咤するいのりちゃん。と思いきや「頑張れるかな」と頭をナデナデ。デレるおっさん。これは萌える。「こんなとこで何してんだ!」
続いては“天下無敵”と大きく刺繡が入った特攻服のいつきちゃんが俺の顔を覗き込んでくる。
「転校してきたばかりで話し相手がいないんです……」
「ちょっと顔貸しな!」。襟を摑まれ、顔を引き寄せられ、殴られると思いきや、耳打ちしてくる。(いっしょにいいコトしよっ♡)ドスの利いた声から一転、猫なで声。シャンプーの匂いが鼻腔をくすぐり、ツンデレがおじさんの琴線に触れる。浮世を忘れ、妄想の世界に浸かるのも悪くない……。
【Funfare】
住:東京都千代田区外神田4-6-2 いすゞビル5F
電:03-5296-9191
営:営(平日)17時~、(土日祝)15時~LAST
休:なし
料:3000円(ご新規様60分・飲み放題)着せ替え3000円、チェキ1000円、フード持ち込み1000円。Twitter(@akibafunfare)
協力/O氏(夜遊びガイド) 撮影/渡辺秀之