俺の夜
大阪は夜遊び界にとって常に斬新なアイデアを提示してくる街であり、それはやがて東京に流れてくるのが常だ。夜遊びガイドのO氏も「ミナミにとんでもないビルができたので見てきてほしい」と言うので、すぐさま新幹線に飛び乗った。
アジア系の観光客でごった返す道頓堀。グリコの看板前や、戎橋のたもとのたこ焼き屋台やラーメン店は一様に行列で、ボリュームの大きい外国語が飛び交っている。
そぞろ歩きしていると、外国人たちが立ち止まり、中の様子を伺い、撮影をしている場所が。
「ある夜、ビルの片隅で」と大書きされた看板。一棟の壁が巨大でド派手なアニメのイラストで埋め尽くされている。これが例の……おののく俺。恐る恐るドアを開けると、ポップな内装の部屋に、さまざまなコスプレをした女のコがわんさといるではないか!
極めし者の巣窟!? ビル一棟がコスキャバ
「いらっしゃいませ」。執事風でイケメンの店長氏が極めて冷静にシステムを説明してくれる。「ビル一棟がコスプレキャバクララウンジとなっており、まずは1階のバーでレイヤーのコを吟味しつつ、気に入ったコがいれば、2~4階に上がり、お話できるシステムとなっております」
客はここでは尊敬の念を込めて「タニマチ」と呼ばれ、“彼女たちの夢を応援する”というミッションを授けられる。そう言えば、お隣は「谷町」。タニマチの語源となった町だ。“夢を応援する”というコンセプトはおじさん冥利に尽きるが、コスプレ女子と話すのには慣れていない。ドギマギしていると、次から次へとレイヤーたちが挨拶にくる。 何のコスなのか皆目見当つかないが、そんな俺の動揺を見透かしたのか、スマホで「オリジナルキャラ」を見て、今日のコスに対する思いの丈を語ってくれるのが嬉しい。俺は漫画『デスノート』(これくらいは知っている)のミサミサコスの、ななり~☆ちゃんと、ゲーム『プリパラ』の白玉みかんコスの密秘ちゃんを“緊急召喚”(=場内指名)。ここでは指名は召喚、出勤は参戦、退勤はコンプリートなどコンセプチュアルな専門用語が飛び交い、独特の世界観に浸ることができる。上のフロアに繋がる階段は、迫力あるオノマトペで埋め尽くされており、テンションが上がる。
2階のラウンジではゆっくり腰を落ち着けてトーク。レイヤーさんたちは常日頃から暑がりだそうで「夏場はヅラやコスチュームで蒸れて、ぶっ倒れそうになった」(ななり~☆ちゃん)と「コスプレ裏話」を披露。デスノートと関西人ノリのギャップが萌える。すっかり打ち解けたところで、カラオケのお誘いが。アメリカ人アーティストが手がけたというクールな壁画が目玉の最上階の「宴の間」に移動。俺でも知っているエヴァンゲリオンの名曲「残酷な天使のテーゼ(’95年)」を一緒に熱唱し、声をからした。 【ある夜、ビルの片隅で】住:大阪府大阪市中央区宗右衛門町2-17
電:06-6214-9000
営:19時~LAST
休:月
料:60分5000円~(1Fのバーはノーチャージ、ドリンク500円60分制)
通称「あるので」という呼び名で親しまれるミナミの新ランドマーク
一度飲み始めたら最後、翌日がどんなに辛くても「俺が帰ったあとで楽しいことが起きたら……」と思うと、いつまでも席を立つことができない泥酔記者のスギナミです。
そんな夜の奇病・NTKS(飲み会の途中で帰れないシンドローム)を患うこと早20年。いくつになっても一向に症状が改善されないのは “最高の一夜”を更新したいという欲求に尽きるだろう。誰からも束縛されず、憎悪の感情もなく、笑い声の絶えない奇跡の一夜。それを“意図的につくり出そう”とする夜の新業態が、サラリーマンの街・新橋にオープンしたという。“ピリオドの向こう側”を目指すべく同地へと向かった。
テンションを高める仮面美女と絶叫MC
新橋栄通りの路地裏、飲み屋がひしめくビルの地下1階に「ITTAIKAN」はあった。完全前金制で1時間4000円(飲み放題)。カウンターで料金を支払い店内に足を踏み入れると、ようこそここへ~と、光GENJI「パラダイス銀河」が爆音で流れてお出迎え。スモークがたかれた店内に目を凝らせば、仮面姿の男女が、遅れてきた主役を待ちわびたような眼差しでグラスを掲げながら乾杯を交わしてくる。
なんだ……この店は!?
「お店のテーマはノリのいい結婚式の二次会。キャバクラ行って可愛いコが隣につくより、飲み屋で意気投合した女のコと仲良くなったほうがラッキー感は強いじゃないですか。ガンガンお酒飲んで、この場に居合わせた男女と盛り上がっちゃいましょう」(店長)
女性客は1000円飲み放題。近くの居酒屋で特盛ハイボールが980円で売られていることを考えれば激安設定だ。そのせいか、店内には女性客も多い。つまり、ナンパを楽しむってことか?「トークで女のコの気をひくなんてムリゲーですよ。口説かなくても勝手に楽しめるように、我々スタッフがいるんですから」(同)
論より証拠とばかりにテーブル上の「サイコロスイッチ」を押す。嬌声と共に駆け寄る美女キャストに手を引かれ、店内中央のお立ち台に。サイコロの出た目のゲームを、指名した女性客と一緒に楽しむという仕掛けだ。指名交渉は寺門ジモン似のMCが直々に女性客の元に出向いて行う。早速、記者好みの黒髪女性客にオファーをお願いしたところ……「オッケェェェー、ラッキーボーイ」と、サンシャイン池崎もかくやという絶叫MCとともに、店内が「ウォーッ」と盛り上がる。これは……楽しすぎる。
その後もひたすらゲームを回し回され、ときに泡盛ショットの逆指名も受けたりして、いやが上にも“一体感”は増していく。意気投合したOLさんとのLINE交換なんてヤボはいらない。なぜなら、一期一会の楽しい夜は、いつでも変わらぬ場所に“在る”のだから。
【嵐を呼ぶサイコロゲーム】『当り目』…泡盛ハブ酒のショットを一気飲み。他のお客さんにお願いもできて一体感はさらに高まる仕掛けだ!
『後ろからネクタイ』…文字通り、女性が後ろから手を回して男のネクタイを締める。しっかり密着しないと、成功しないぞ!
『エマニエル大人の誘惑』…男女が向かい合う。『エマニエル夫人』の曲中にある「あ~ん」に合わせて高速で足を組み替える。
『ラブジュースでごっくん』… 特製カクテルを二股に分かれたストローでもって最後まで飲み干す。酔いと興奮が同時に襲ってくる!
『ポッキーゲーム』…合コンお色気ゲームの定番。唇が触れ合わないように、ガラス越しに最後までポッキーを食べる。
『ヒザトーーク』…一定時間、男性のヒザの上に女性が座って密着。そのまま二人だけのトークを楽しみ親密度はアップ!
【ITTAIKAN】住:港区新橋3-19-8 ルグラシエル27 B1
電:03-6459-0617
営:19~25時
料:1時間4000円1チップ付(女性は1000円、ハイボール各種サワーなど飲み放題。税・サ込み) 1チップは1枚1000円。飲み放題以外のドリンク、サイコロは各1枚
かつて夜の店が盛んな街として知られていたイースト東京の雄・錦糸町。だが、’10年代に入り風俗店の摘発や都心の大手グループの撤退が相次ぎ、繁華街全体の地盤沈下が進行。結果、アジア系店舗の危険なキャッチが跋扈するようになった。
だが、そんな状況もここ2年ほどで変化の兆しが表れる。特に駅南口の丸井裏エリアでは居抜き店舗を活用した“ふつうの店”が台頭するようになったのだ。今回紹介するバンビーナも、まさにこのエリアに店を構える外国人が経営する新形態のお店。
「錦糸町×外国人」と聞いて思い浮かべるイメージとは異なる、一風変わったお店を紹介しよう。
酒と料理はイタリアン。でも雰囲気はスナック!
「なんのお店でしょうね? バーと言うとちょっとカタイですし、イタリアンと言うほど料理がメインでもない。それに、ここはカラオケも歌えますし……」 店のジャンルを問われ、迷いながらも流暢な日本語で答えるのは、ルーマニアとイタリアの国籍を持つ店長のタニアさんだ。こちらのお店は、お酒を飲みながら、本格的なパスタも堪能できる。「カウンターに立つのは、私に加えて、日本に来たイタリア人の留学生たち。みんなある程度日本語を話せるので、お客様と一緒にお酒を飲みながら過ごしています」
「それなら、日本ではぴったりの用語がありますよ! 『スナック』って言うんですけど」
「スナック? それ、ヨーロッパにはないですね」
ならば、便宜上「イタリアンスナック」と名づけよう。ナポリタンのようなもので、イタリアをルーツとしているが、生まれたのは日本。こちらのバンビーナもそれと同じようなものだろう。
今日カウンターに立つのは、イタリアはベルガモ出身のマルティーナさんだ。
「今年2月に日本に来ました。六本木とか渋谷より、私は門前仲町、錦糸町のほうが好きですね」最近覚えた日本語は?
「『領収書ボタンを押してください』。あとは『赤の補色は緑です』。教科書に書いてあったんですよ」
それ、日本で生活していても普段絶対使わないよ!
ここで、カウンターの裏にいた店長のタニアさんが再び登場。
「オリジナルのトマトパスタです。野菜は私が持っている千葉の畑で取れたものです」
一口で味の違いを認識。さすが本場、レベルが違う。深夜にこれが食べられるのはありがたいな。揃える酒の種類はワインよりもウィスキーが多く、もちろんボトルキープもできる。このへんはスナックっぽいな。
「実は、一人で来る女性のお客様も、けっこういるんですよ」
なるほど、ここで飲んでいたら思わぬ出会いもあるかもしれない。ワインを飲みながら未来のアモーレを探す下町のイタリアンスナック、通いたくなるわけだ。
【Bambina】
住:東京都墨田区江東橋2-6-14 エスカイヤ錦糸町プラザ5F
電:03-5625-3339
営:19~24時
休:日
料:チャージ1000円(男性)、500円(女性)/1時間 ビール700円、ワイン800円、パスタ1400円、ボトルキープ8000円~
撮影/長谷英史 協力/U氏