俺の夜
開幕前は盛り上がりに欠けていた東京オリンピックだが、いざ始まれば自宅観戦で熱狂しているスパムです。そんなときに欠かせないお酒とおつまみ。もっぱらハイボール缶と乾きものを頼りにしているが、やっぱりたまには酒場の雰囲気を味わいたい。
そんなとき、「ウイスキーはお好きでしょ?」のキャッチフレーズで馴染みのCMが流れた。美人ママとハイボールと唐揚げ……。この組み合わせは、なぜこれほど魅力に溢れているのだろうか。居ても立ってもいられず、“ハイカラ”を求めて街に繰り出した。
今回訪れたのは地下鉄の銀座駅から徒歩5分ほどにあるボトルキープバー「BAR CASIAN」。サントリーのホームページでも紹介されているお店だ。現在は緊急事態宣言のため休業中だが、特別にお邪魔させてもらった。
店内に入ると、壁やインテリアはシックにまとまったなかに、盆栽などの小物が配置されていたりと和洋折衷の内装だ。カウンター奥の棚には、キープボトルのウイスキーがずらっと並ぶ。そこに登場したのは、美しい着物姿のちあみママだ。
ちあみ「ホームページで紹介していただいているのは、お店を始めた10年前ぐらいに、サントリーの人とたまたま飲み会で知り合うご縁があって(笑)。とはいえ何か提供を受けてるわけじゃなくて、ときどき飲みに来てくれるくらいなんですけどね(笑)」 美人ママが醸す雰囲気はまるで“あのCM”の世界!そんな常連客がお目当てにするママが作るハイボールを注文。うすはりのグラスに氷を入れ、ウイスキーを注いだらかき混ぜる。さらに氷を足したら強炭酸ソーダをゆっくり注ぐ。完成したハイボールをくいっとひと口。炭酸の泡が喉を刺激して……うまい!
「私も飲みたくなっちゃった」と、ちあみママ。ハイボールで乾杯。ググッといい飲みっぷりの横顔は、まるでCMの世界観じゃないか。ちあみ「ほんと? ずっと待ってるのに全然CMの話が来ないんですよ(笑)。私も若い頃はお客さんともいろいろあったけど、もうそういうのはナシなのかな?」
揚げたての唐揚げとハイボールを愛でる幸せ
アリです! と言いかけたときに、イチ押しフードの唐揚げが登場。料理担当は、聖子チーママ。揚げたてを一口かじると肉汁がブワッと溢れ、熱くなった口内に冷たいハイボールを流す。……うめえ!!
聖子「大山どりを使っていて、味つけもお酒が進むように少し濃いめ。私が出汁ソムリエの資格を持っているので、仕込みからこだわっているんですよ」チャージ料の1万円は高く感じるかもしれないが、お通しの茶碗蒸しと料理2品も含まれているので、銀座ではかなりの良心価格だ。近年は国産ウイスキーの人気が上がり酒屋ですら入荷待ち。ネットで購入したり仕入れが大変だとか。
ちあみ「緊急事態宣言が明けたら、銀座にも飲みに来てね。最高の“ハイカラ”でおもてなしをします」
同じお酒でも、どこで誰と味わうかによってまったく別物になる。見えを張って少し高いボトルをキープして帰るスパムでした。
【BAR CASIAN】
住:東京都中央区銀座6-7-9 丸喜ビル4F
電:03-3571-7123
営:18~24時
休:土・日曜
料:チャージ1万円(茶碗蒸し+料理2品付き、初回のボトル代は別途)。
リニューアルオープン日の詳細などはお店のインスタグラム(@barcasian)まで
撮影/菊竹 規
大山海著『奈良へ』は傑作だ。漫画でありながら、漫画を読んでいる気がまったくしない。これは映画なのか、文学なのか? ふと似た感覚に襲われた記憶が甦る。学生時代に読んだ、喜国雅彦著『月光の囁き』だ。
高校剣道部が舞台の青春物語が、やがてリアルなSMへと展開していく──当時の衝撃を思い返しながら、新宿二丁目のフェティッシュバー「アマルコルド」を訪れてみた。「SEXとSMは別ってわかってないんだよね。M男以下でしょ」
席に着くなり、女性客の剣呑な会話が耳に飛び込む。SM自体ずぶの素人の自分は、よほど素っ頓狂な顔をしていたのだろう。代表のアンジーさんが優しく教えてくれた(外見はドS女王様でビビったが、すごく気さく!)。
「SEXって、結局は射精で終わりでしょ。でも、SMの基本は人間関係。『この人、どんな反応するんだろう?』って、お互いを掘り下げ合い、しかも、そこには果てがない。深いからこそ求めるものが十人十色で、合う合わないが激しいし、SEXとは別物なんです」「脳汁で遊ぶのがSMなんです~。だから、変態さんほど単純な性から遠ざかります。SMプレイって、肉体的な刺激に目がいきがちですけど、実際は精神的な快楽のほうが断然大きいんです」
SMネタと本当のSMの違いを教えてあげる講義に夢中になっている間に盛況となった店内には、意外と紳士淑女が多い。「『偉くなって叱られなくなっちゃって』と40、50歳からM男を始める奴隷もいるわね」と教えてくれた花子女王様に「自分もMだと思うのですが……」と打ち明けてみる。
「責められるのが好きなのね。だったら、『それはさすがに嫌だな』ってことはできる? できないの? じゃあ、ただの“エゴマゾ”ね。あなた、奴隷以下の最下層よ。エゴマゾ、エゴサドっていうのは、“やりたいことしかやらないヤツ”。たとえば『痴女に責められたい』って、結局、自分が望むことをしてほしいだけ。本当のM男は、女王様が喜んでくださるならって、嫌なこともできる人ね」雛りなさんが続ける。
「でも、SMはいじめじゃないから、ガチで嫌なことはしちゃダメ。だから、信頼関係が何より大事。信頼関係もないのに『俺、Sなんだよね』とか言いだす人は、SMの範疇ですらない、“シンプルに性格の悪いクソ野郎”です~」
SM道、深すぎる! これで「ウチは初心者歓迎の入門編よ」(アンジーさん)というから、その深淵、計り知れない。
【フェティッシュバー「アマルコルド」】
住:東京都新宿区新宿2-18-7 S3ビル1F
営:17:00~20:00(木・金)16:00~20:00(土・日)
休:月・火・水
料:チャージ1h6000円(男性)、3000円(女性)飲み放題
※詳細や最新の営業情報はtel:03-6457-7477もしくはTwitter(@amarcordtokyo)にて
※営業時間や酒類提供の有無が時期により異なる可能性があります。店舗にお問い合わせください。
撮影/髙橋慶佑
コミックマーケット(コミケ)などの大規模展示会が開催できない状態となって久しい。コロナ禍に突入する以前は毎年夏と冬、会場を彩るコスプレイヤーたちを撮影するべく、カメコ(カメラマン)として参加していた僕。彼女たちに会いに行きたい……まるで、心にぽっかりと穴があいてしまったようだ。
そんなある日、Twitterを検索していると、フォロワー3万人以上の人気コスプレイヤーがユニークなコンセプトカフェをオープンさせたという情報をキャッチ。場所は編集部から近く、サラリーマンの街と呼ばれる新橋。居ても立ってもいられず、足を運んでみることにした。
撮影会でもトレンド。キャストは「競泳水着」
7月上旬の週末、JR新橋駅の烏森口を出ると、飲み屋街には人出が戻りつつあることに驚いた。桜田公園を過ぎたあたりで、今日の目的の店「競泳水着カフェ」の看板が目に留まった。
そう、今回は競泳水着を拝みに来たのである。看板には、かわいらしい女のコのイラストが描かれている。もしかして……?
「あ、いらっしゃいませー」
イラストそっくり。彼女が店長の酒乱にゃまさんだ。キャストはコスプレイヤーを中心に、フェチモデルから女子大生まで幅広い。コロナ禍でも「負けたくない」一心で競泳水着カフェを今年4月22日にオープンさせたという。
「このご時世で、どうしたらお客さんに来てもらえるか。撮影会やグラビアでも競泳水着がトレンド。単発のイベントではなく、常設店舗としては日本初なんです」禁断のローアングルも……1分動画撮影が可能!
コスプレとはいえ、競泳水着は“ガチ”。一着1万円以上するものまであり、実際の競技などでも着ることができる仕様なんだとか。しかしながら、素人目には何が違うのかわからない。
すると、「ここを見てください」とお尻を突き出す。一瞬ドキッとしてしまうが、上部の小さなタグがその証しなんだとか。ぴちっとしてボディラインが際立つ競泳水着。席に着いて乾杯しながらも、つい目がいってしまう。それに気づいたのか、「撮りますか?」とにゃまさん。通常のコンカフェなどでは、チェキが一枚1000円程度。一方、同店では1分の間、動画や写真が撮り続けられるというのだ。どんなポーズが好評かを聞けば、「そんきょの姿勢ですね」と言いながら、僕の目の前に大股開きでしゃがむ。キャストの了承を得れば、ローアングル撮影も可能。コミケで盗撮に悩むコスプレイヤーも多いが「お金を払ってうちで正々堂々と撮ってほしい」。
店がスタートして約2か月。SNSでじわじわと話題を呼び、開店時間には客が入る。なかには、ワクチンを接種したうえで地方から来たという人もいるとか。店内をパワフルに動き回る店長のにゃまさん。その裏には、信念が隠されている。今は亡き父親が、生前は飲食店を経営していた。最期に枕元で彼女に対して「絶対に成功してほしい」という言葉を残していったそうだ。
ひたむきに頑張る姿に、思わず胸が熱くなる。酔いが回ってきたせいなのだろうか。なんだか興奮と感動で忙しい夜だ。コミケなどのイベントは見通しが立っていないが、コスプレイヤーたちは逞しく生きているのだった。
【競泳水着カフェ】
住:東京都港区新橋3-8-5 さとぺんビル5F
営:16~20時
休:日曜
料:飲み放題60分3000円、缶もの1000円、キャストドリンク1000円、1分動画撮影1000円
※詳細はTwitter(@HEAVENkyouei)をチェック!
※営業時間や酒類提供の有無が変更になる可能性があります。店舗にお問い合わせください。
撮影/長谷英史