第三十二夜【前編】

“オトナの夜”の登竜門 チークダンスに萌える恋ゴコロ


【担当記者:スギナミ】

 校庭の鉄棒、好きな女子のリコーダー……。人間誰しも思春期の芽生えの記憶を持っているものだが、ボクにとってのそれは小学校のフォークダンスだった。憧れの女のコと踊る順番が近づいてくるときのドキドキ感、そのコが友だちの男と踊っているときの言葉にできない切なさ。そして、彼女との番が来る一歩手前で、無情にも曲は終わってしまった――。

 そんな傷心を持つスギナミにとって、この連載の新メンバー入りが決まる前から題材は決まっていた。それは、女のコと踊れるお店でチークダンスに挑戦することだ。

「あの日、止まったままの初恋の時間を取り戻そう」

 とはいえ、ディスコに集う若者たちがチークタイムで愛を深め合ったのは高度成長期の話。現在、チークを踊れる店は地方のスナックくらいしか思い当たらない。早くも挫折を感じそうになったボクの耳に飛び込んできたのは、銀座に今も残る、グランドキャバレーの存在だった。

ダンスフロアは二人だけの秘密の”聖域”

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 週末の午後7時。銀座三丁目の通称”ガス灯通り”。名店がズラリと並ぶこの通りに、昭和6年開業の老舗キャバレー「白いばら」はあった。中に入ると、真っ赤なビロード風のソファ、市松模様のダンスフロア、そして生バンド。 ’70年代の東映映画で描かれていた昭和の世界にタイムスリップしたような錯覚を覚える。

「うちのホステスさんは温かくて家庭的なコばかりですよ」

 そう語るのは山崎征一郎店長。この店で40年間、さまざまな恋愛模様を見てきた銀座の夜の生き字引だ。さっそく、女心を揺さぶるチークの作法について聞いてみた。

「細かいステップやテクニックなんて必要ないの。左に回転してリズムに合わせて体を揺らすだけでいい。あとは柔らかさね。すっと抱かれる感じで自然と体が触れ合えば、女性の寄りかかる度合いも違いますよ。昔も今も包容力のある男に女は憧れるんだから。スマートに踊れる男には、女のコのほうから『ラストダンスは私のためにとっておいてね』とくるんだよ」

 お気に入りのホステスとラストダンスを踊る――。それが、男にとって最高のステイタスだという。

 店長が去った後、席についたのはあきなチャン。笑顔がチャーミングな美女に、鼻の下は伸びっぱなしだ。

 しばらく会話を楽しんでいると20分間のショータイムが始まり、それが終わると場内が暗転。そして、「みなさんお隣のホステスさんとチークダンスはいかがですか?」とアナウンスが流れた。



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【クラブ 白いばら】
住:東京都中央区銀座3-5-18
電:03-3561-2845
営:18時~23時30分 定休日は月2回の日曜と夏場日曜
料:A=2時間9400円 B=1万2100円(延長30分2500円)、
飲み放題1時間7400円(延長30分3000円)ほか。
いずれも税・サービス料込み、指名料等別料金




撮影/石川真魚 協力/井口 裕

スギナミ 東京都生まれ。主な出没地域は中野、高田馬場の激安スナック。特技は「すぐに折れる心」
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