明石と聞いて思い浮かべるのは、タコや明石焼きか。なかには、市長のパワハラ騒動を思い出すという人もいるだろう。だが、こと関西圏のファミリー層の認識は異なる。SUUMO「住みたい街ランキング2022」関西版では兵庫県西宮市、大阪市北区などに続いて明石市は6位に。「生活ガイド.com」の「全国戻りたい街ランキング」’21年版では明石市が1位を獲得しているのだ。

その魅力は「子ども第一主義」の取り組みにある。高校生まで医療費無料で、中学生の給食費も第2子以降の保育料も無料。紙おむつの無料宅配やシングルマザー向け養育費立替サービスという全国初の取り組みも。子ども最優先の行政サービスと荒っぽい言動でたびたび物議を醸す泉房穂市長の歩みを追った。
賛否両論を巻き起こす市長の言動
──明石市の取り組みが全国的に注目を集める一方で、市長の言動は賛否両論を巻き起こしていますね。
泉:私はホンマもんのいらち(せっかち)で、エレベーターも嫌なんです。階段しか使わんし、自動ドアにはしょっちゅうぶつかる。それは、いい意味で言うとスピード感になるから、コロナ禍ではエライ褒められましたよ。「家賃が払えない」という個人商店の悲鳴を聞いて、明石市は’20年4月から家賃2か月分を支援金として振り込んでますからね。どこよりも早かったんとちゃいますか? けど、危機的状況を抜けると、いらちが悪いほうに言われる。
──それは副市長2人が任期途中で退任したこと? 市長と副市長が対立していたと報じられましたが……。
泉:そりゃ、副市長に聞いてもらわなきゃわからんでしょうな。ただ、会見で話したとおり、2人から「区切りをつけたい」と申し出があったのは事実。マスコミは対立を煽るのが好きやから、しょうがない。

泉氏こだわりの明石駅前の子ども向け施設では子連れ家族が快く撮影に協力
──市長が、川崎重工明石工場の法人税額を無許可でツイートしたことをめぐって、明石市議会は百条委員会(調査権を有する特別委員会)の設置を決めました。議会と市長との対立もあるように見受けられます。
泉:お騒がせして恥ずかしい限りですが、議会と揉めるのはしょっちゅうです。市長になって1年目(’11年)には予算案を議会に修正されましたし、その後も市議会全会一致で「市長に議会軽視の反省を求める決議」を採択されたこともありました。けど、少しずつ結果を出していって市議会の対応も変わっていった。圧倒的多数の市民が「イエス」と支持してくれたら、市議会も「ノー」とは言いにくくなります。
──実際、前回の市長選挙では7割の票を獲得しました。なぜ、それほどの支持を獲得できたのか?
泉:当然、子ども第一の取り組みですよ。明石駅前の商業施設、見られました? あれは私が市長になる1年前に再開発計画が固まったんですけど、私が中身をごっそり入れ替えたんです。サラ金やゲーセンを追い出して、図書館と子どものための施設を入れた。「子どものための場所にするんや。それ以外は許さん」って。ありがたいことに、ゼネコンさんも「わかりました」言うてくれてね。
おかげさまで’17年にオープンした子ども施設は大好評です。’13年には中学生までの医療費無料を実現しましたが、昨年から高校生も無料にしました。中学校の給食は無料で、第2子以降の保育料も無料。おむつの無料宅配もやって、市内全28小学校区で“こども食堂”をやっているのは明石市だけでしょう。その結果、子育て世代の転入数は関西1位になって、人口は9年連続で増えている。さらに税収は7年で30億円増えて、市の貯金は12年ぶりに100億円を超えました。