更新日:2026年07月14日 15:56
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インド旅で価値観が変わる人の人生は薄っぺら過ぎ…と思っていた私が、西葛西のカレーで変わりかけた/カツセマサヒコ

ただ東京で生まれたというだけで何かを期待されるか、どこかを軽蔑されてきた気がする――。そんな小説家カツセマサヒコが“アウェイな東京”に馴染むべくさまざまな店を訪ねては狼狽える冒険エッセイ。今回の舞台は、日本一インド人が多い街・西葛西。旅も辛いものも得意ではない著者が、なぜか満面の笑みで店を出るまで。願いは今日も「すこしドラマになってくれ」

インドは止まらず進む【西葛西駅・スパイスマジック カルカッタ(インド料理店)】vol.30

 私は「旅」というものをあまり信用していない。  転居ならまだわかるが、一時的に別の国の空気を吸ったくらいで「価値観が変わった!」と言うのなら、それはあなたの人生が薄っぺら過ぎただけなのでは?と嫌みを言って人を怒らせたくなる。  そこまでひねくれてしまったので、旅自体も好きではない。旅好きがよく語るインドなんかは、とくに自分に縁がない国だと思う。 「そういえば、江戸川区の西葛西は日本で一番インド人が多い街らしいですよ。日本のリトルインディアとも呼ばれるそうです。カツセさんはインド街が似合わないので、行ってみましょうか」  もはや支離滅裂なことを言うようになった担当編集に連れられ、西葛西に向かった。  平日の昼間に着いたが、横浜中華街のようなわかりやすい商店街があるわけではなく、ただ静かな街のように思えた。  ここがリトルインディア? 疑いながら歩くと、ママチャリに乗っているインド人(と思われる)女性とすれ違う。1分後にはスーツを着て歩くインド人(っぽい)男性6人組を見かけた。  わざわざインドっぽく装飾はしないが、ご近所さんがみんなインド人だった、くらいの感覚で、自然と街が成り立っているようだった。  さらに歩いて、目的地の「スパイスマジック カルカッタ 南口店」に着く。  インド料理と一言で言っても、北インドと南インドでは食生活も異なるらしい。米やナンを添えたカレーは、北インドが主流。南インドは豆と米を発酵させた生地を極薄に焼いた「ドーサ」が朝食の定番だという。  南インド料理を提供してくれるのは2店舗ある同店でも「南口店」だけらしい。 「せっかくだから食べたことがないものに挑戦を」と担当編集が張り切り、そんな冒険は不要な私の前に「キーマドーサセット」が運ばれてきた。  初めての「ドーサ」だが、第一印象は、〈止まれ〉と書かれた三角形の道路標識である。

1986年、東京都生まれ。小説家。『明け方の若者たち』(幻冬舎)でデビュー。そのほか著書に『夜行秘密』(双葉社)、『ブルーマリッジ』(新潮社)、『わたしたちは、海』(光文社)などがある。好きなチェーン店は「味の民芸」「てんや」「珈琲館」