シジュウカラ(写真/鈴木俊貴氏提供)
「ほら、『ヂヂヂ』って聞こえるでしょ? この鳴き声は、シジュウカラが仲間に『集まれ』と呼びかけているんです」
東京都目黒区の駒場野公園で目を輝かせるのは、動物言語学者の鈴木俊貴氏。「言葉は人間特有」との常識を覆し、
世界で初めてシジュウカラの文法と単語を解明。「World OMOSIROIAward」を受賞するなど脚光を浴びている。動物に対する価値観を一変させる研究の未来とは。
大好きな鳥の視点で世界を見たかった
動物言語学者:鈴木俊貴
――即座に鳥の声を聞き分ける様子に感動しました。昔から鳥が好きだったんですか?
鈴木:幼少期から常に昆虫や魚、カエルなど20種類ほど飼うくらい動物観察が好きで、小学1年生の頃から動物学者になりたいと思っていました。なかでもハマっていたのが、バードウォッチングです。動物園や自宅飼育での観察は、人間が切り取った動物の世界に浸るものですが、バードウォッチングは自分が鳥になってありのままの彼らの世界を理解する試みです。そんな鳥の世界への好奇心が高じて、大学では生物学を学び、鳥の動物行動学を研究し始めました。
――最初から動物の言語を研究していたわけではないんですね。
鈴木:そうなんです。シジュウカラに興味を持ったのは、大学4年生の卒業研究のときです。ほかの鳥と比べても、シジュウカラが群を抜いて鳴き声の種類が多いと気がついて。そこで、「実は鳥の世界にも単語や文法があるのでは」と思ったのが、言語の研究を始めた発端でした。
――その頃、研究はどんな形で行っていたんでしょうか?
鈴木:まずは、シジュウカラの世界に入り込むため、長野県軽井沢町の森にひたすらこもりました。土日もクリスマスもなく、長いときは1年のうち10か月ほど滞在しましたね。シジュウカラと同じ時間帯で過ごすため、毎日朝4時半に起きて、夕方6時半には宿に戻り、データを整理して、翌日の準備をする。大学生時代から、このスタイルはほとんど変わっていません。当初は研究費もなかったので、レコーダーや装置の費用や交通費、宿泊費も全部自腹。宿泊は一泊500円の大学の山荘でした。暖房もない山小屋暮らしなので、冬は寒くてダウンジャケットにくるまりながら寝る日々で……。
――かなり過酷ですね。
鈴木:でも、時間を捧げる価値はあると思っていました。だって、この発見が2000年以上前の古代ギリシャのアリストテレスの時代から続く「人間しか言葉を持たない」との常識を変えるかもしれない。その高揚感もあったし、何より鳥の世界に浸るのは楽しかったので(笑)。