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「ネガティブでつまらない人間こそ“面白い”を生み出せる」TAROMAN、石田三成CMetc.を作った鬼才の意外な素顔

つまらない人間こそ面白いを生み出せる

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◉映像作家・クリエイティブディレクター:藤井亮氏

『TAROMAN』や「石田三成CM」といった昭和の世界観をフェイクで再現した映像作品や、プロデューサーの佐久間宣行氏の存在感を前面に押し出した異色のアイドルMVなど、ユニークな作風で支持を集める映像作家・藤井亮氏。そんな彼の発想法や仕事術をまとめた書籍『ネガティブクリエイティブ つまらない人間こそおもしろいを生みだせる』(扶桑社刊)も話題を呼んでいる。広告出身のクリエイターという華やかな肩書を持ちながらも「リア充とはほど遠い、周囲も認めるネガティブ人間」と語る鬼才の軌跡や思考法に迫った。

ネガティブだからこそ強みが生まれた

――新刊『ネガティブクリエイティブ』では、「口下手ゆえプレゼンでは『藤井が話すと企画の面白さが8割減る』」「面白いコンテンツを作っていると面白い人だと思われがちだが、人に会ってもまともに話せず、がっかりされる」など、藤井さんの後ろ向きな性格が伝わってきました。広告代理店のクリエイターというキラキラした世界にいながらも、そのネガティブさはどうして生まれたのでしょう。 藤井:学生時代の環境が大きいです。当時はヤンキー文化が全盛期で、「絵を描くことの価値」は低かった。絵を描くのは昔から好きだったのですが、そんな文化の中で育ったので、クリエイティブに対するネガティブさが生まれたのかなと思います。 ――自分の好きなことは、その文化圏では評価されなかった? 藤井:はい。評価といっても、せいぜいヤンキーの友達のバッグにバイクの絵を描いて、喜ばれる程度です。そこで、「自分が面白いと思うものを、すべての人が面白いと思うわけではない」との価値観も生まれました。 ――その後、映像を作りたくて電通に入社されたわけですよね。新卒から順風満帆では? 藤井:いや、全然ですよ。アートディレクター採用だったので、最初は映像にはあまりタッチできなかったですし。広告代理店は発注が主な業務なので自ら手を動かす機会も少ないし、主導権を持てないことが多かったです。あと、極めつきは関西転勤です。クリエイティブ業界は「東京こそ本流」との意識が強いのに、僕は入社直後に関西支社に配属で……。日々「東京に戻りたい」と腐っていました。 ――入社当時から、かなりネガティブだったんですね。 藤井:そうですね(笑)。ただ、いまにして思えば最初から逆境だったおかげで、「自分は広告業界で働くおしゃれなクリエイターだ」という勘違いをせずに済んだのかなとは思いますね。 ――悲観的な性格ながらも、逆境の中で映像を作り続けられたモチベーションはなんですか? 藤井:「とにかく面白いものを作る」という信念を大事にしてきたことでしょうか。正直、世の中の仕事の大半は、本当に面白いものなど求められていないと思っています。でも、どんな仕事でも自分なりのこだわりや楽しみを見つけると、続けられる。あとは、持ち前のネガティブさも大きいです。ポジティブな人ほど変化を怖がらないから、どこかで見切りをつけてやめてしまいます。でも、僕はネガティブなので転職するのも怖かったし、ほかのことができないので営業など別の部署に配属されるのも困ってしまう。だから、文句を言いつつも映像を作り続けたのが良かったんでしょうね。