癒し系の皮を被った生々しい作品『まどか☆マギカ』は深夜アニメに一石を投じた
アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』にどっぷりハマった論者たちが作品の魅力や秘密を語り尽くす!
森川嘉一郎(明治大学国際日本学部准教授)
◆「まどか☆マギカ」とは劇場型の舞台設計に本質を宿した物語である
結末まで観た後で、最初から見返すと、同じ場面、同じセリフが、まったく違った意味合いを帯び始める。テレビシリーズながら無駄なエピソードのない緻密な作劇で、再読性が高い。これは、作中のロボットや変身アイテムなどのオモチャではなく、作品DVDの販売を大きな収益源とする「深夜アニメ」のビジネスモデルがもたらした、最良の成果の一つでしょう。
もともと魔法少女モノというのは、女の子向けのオモチャの宣伝番組として発達し、形式化されてきたジャンルです。主人公の少女がアイテムを使って美しくカッコよく変身し、事件を解決したり魔物を倒したりするのを、延々反復するわけです。そのような魔法少女モノが、大人の視聴者にDVDやブルーレイを売ることをビジネス上の命題として作られるときに、どのように変質するか。それが、『まどか』の最大の見どころの一つです。過去に同様な試みはいくつかありましたが、これほど型破りな作品はありませんでした。
個人的に目を引いたのは、各場面の絵的な構図です。主人公の家の子供部屋も、リビングも、洗面所も、学校の教室も、公園も、まるで演劇の舞台を客席から眺めているように、真正面からロングで描いた構図が異様に多い。結果として、シュールなほど広々とした洗面所が創出されたりしています。それはおそらく、蒼樹うめ氏によるデフォルメの効いたキャラクターに、虚淵玄氏の生々しい脚本を演じさせるという、この作品の根幹に関わるアクロバットを成立させるために設計された舞台装置なのでしょう。映像作家の劇団イヌカレーによる、奥行きを圧縮したコラージュ画のような魔女のシーンも、非常に効いています。
ここ数年間の深夜アニメは、萌えキャラのほのぼのとした日常を描く、癒し系の作品が目立っていました。その極北ともいえるのが昨年の『けいおん!!』という作品だったわけですが、そのあたりでこの路線は食傷気味に感じられるようになっていたと思います。『まどか』のヒットは、そのような状況下でいきなり癒し系の皮を被った生々しい作品が登場し、新鮮な驚きを与えたということも大きいのではないでしょうか。
【森川嘉一郎】
明治大学国際日本学部准教授。専門は意匠論/現代日本文化。マンガ・アニメ・ゲームのアーカイブ施設、東京国際マンガ図書館の計画に関わる。著書に『趣都の誕生―萌える都市アキハバラ』(幻冬舎)など
(C)Magica Quartet/Aniplex・Madoka Partners・MBS
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