【東出昌大 vol.3】捕らえられた“害獣”の9割が廃棄となる現実
「ハクビシンかかってるけど、いる?」
朝7時、仲澤さんからのLINEで起きた。
寝ぼけ眼にタブレットの液晶画面は明るい。布団を頭から被りながら、朝イチで生き物を殺すかどうか考えた。
白鼻芯。名前の通り白い筋が額から鼻先にかけてスッと通ったジャコウネコ科の動物。長い尻尾はバランスを取るのに適しているのか、小動物の中でも曲芸師のように身のこなしが上手で、電線の上をネコバスのように走ることもある。甘い果樹ならなんでも食べる美食家で、家の屋根裏に棲みついたり、ビニールハウスに穴を開けたりすることもある。
環境庁の調査によると、その被害額は令和4年だけでも、全国で3億6000万円超え。
人間の生活環境を守るために、時として野生動物は“害獣”と呼ばれ、狩猟免許資格を持った猟師が駆り出される社会があり、殺された動物の9割が施設で廃棄される現実がある。
私の到着が遅れれば遅れるほど、罠にかかったハクビシンは逃げ出そうと鋼鉄製の罠に体を打ち付け、怖く、痛い思いをするはずだ。鬱血すれば肉も悪くなる。
「このハクビシン、血がまわっちゃってちょっと臭いね」は、殺された命に向けられる言葉としては、あまりにも残酷だ。今すぐおっとり刀で現場に急行する以外、選択肢はない。
だが、踏ん切りをつけるまでに、命を奪いに行くと決断するまでに、薄暗い部屋の布団の中で、3分くらいあれこれと考えた。そして、やっと踏ん切りがついた。布団を跳ね上げた。パジャマを脱ぎ捨て、返り血がついてもいい狩猟用ズボンにはき替える。ナイフをベルトに通して腰に巻き付け、洗濯バサミに挟んで干されたグローブをもぎとってポケットにねじ込む。免許証も持った。車に乗り込み、すっ飛ばすように山道を下る。
放獣する道はないのか、などと、そもそもなことを考えるが、駆除依頼を受けた個体を放獣することは、法が許さない。法かぁ。法とか、道理とか、社会とか命とか、考えることは答えが容易に出ないものばかりだ。
箱罠の中のハクビシンは暴れてついたピンク色の裂傷が額と背中にあり、小ぶりなその体には似つかわしくないほどに、ゼェハァゼェハァと大きな呼吸音を立てていた。
人家の庭先で止める(殺す)わけにいかないので、箱罠ごと車に積み、師匠の家に向かう。私が師と仰ぐ服部文祥氏はここ数日近所の山に滞在なさっており、冷蔵庫も冷凍庫もないため新鮮な肉が入ったら喜ばれるかもしれない。服部さんのところに到着し、ハクビシンを窒息させようと試みる。酸欠で仮死状態のところを首の付け根の大動脈にナイフを突き立て止める。
なるべく楽に殺してあげたいと思っても、窒息を遂行するために動かす腕の筋力は無慈悲そのものであり、抗いようのないハクビシンにとっては絶望に違いない。意識を失う一瞬前、苦悶の表情を浮かべる様子を見下ろしている私の横で服部さんがひと言「見ちゃいらんねぇな」と呟いた。「はい」と返事をしたが、2人ともそのまま、目を背けることができないでいた。
木に吊るしてバラし、右前足と右後ろ足を持ち帰り、自宅の冷凍庫に入れた。時刻は9時。そのあと、わけあって動物病院に行くつもりだ。
<文/東出昌大>
1988年、埼玉県生まれ。’04年「第19回メンズノンノ専属モデルオーディション」でグランプリを獲得。’12年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。現在は北関東の山間部で狩猟生活をしながら役者業をしている

東出昌大
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