同世代たちが賞レースやテレビで活躍する中、「いつのまにか自分たちだけが売れ残ってしまった」と語るヤーレンズのふたり。荒んだ心を携えながらも『M-1グランプリ2023』で2位となり圧倒的な存在感と実力を見せつける。
しかし、楢原は「2位になってもまったく人生が変わらない。つまらない」とうそぶく……。
(2回/全4回 ※週刊SPA! 2024年7月16日・23日合併号「エッジな人々」より)
「価値観は違うけど、目標が一緒ならいい」
――まだ出井さんの心の叫びを綴ったnoteの話ですが、M-1前は学生芸人への怒りと先輩芸人への怒りが渦巻いてたじゃないですか。
出井:ハハハハハ! かなり渦巻いてましたね。
――楢原さんご自身には、怒りはなかったんですか?
楢原:怒りはなかったですね。いま考えたら、自分のマインドを含めてめちゃくちゃぬるかったです。僕は目の前のものを1個ずつ消化することしかできないから、長期的に見られなくて。
ヤーレンズ出井さん
出井:ああ、その違いはあるかもしれないです。僕はふと人生全体で考えたとき、この状態はヤバすぎるだろ、ここからどう巻き返すの? って。いつまでもできる仕事じゃないし。いわゆる一般的な人生と比較したときに、ぜんぜんダメだなって焦りもあって。相方は目の前のことに集中するタイプなんで、その違いは結構あったと思います。
――だから、出井さんはよりひとりでピリピリして。なんでこいつはこんなのんきなんだよ!って。
出井:それはありました(笑)。
楢原:そこをコロナで仕事がなくなったタイミングで、2人で話し合えたのがデカかったと思いますね。なんとなく同じ価値観だと思っていたら、ぜんぜん違う。この人はちゃんとお金も欲しいし、欲しいものもあるんですよ。
――楢原さんはお金は欲しくはない?
楢原:そうですね、いままで1回も困ったことがないんで。もちろんあったらうれしいですけど、それを遣いたい欲がない。
――別に趣味があるわけでもないから。
楢原:そう、なんにもないんですよ。あったら安心するだけのものが。でもこの人から「ちゃんと稼がなきゃ」っていう話を聞いたときに、もっと頑張らなきゃとは思いました。俺の価値観とは違うんだな、この人はって。だから話し合えてよかったです。
出井:そうね、その温度差はずっとあったんですけど。それを理解し合ったっていうのはすごく大きいです。でも人と人は絶対違うものなんで、何もかも一緒ではない。芸能ゴシップとかの情報は共有してますけど、志とか考えは全部一緒ではないので。
――違うからいいって思えるようになった。
出井:そうですね、思いました。
楢原:目標だけ一緒だったらいいなって。
ブレイクしても何も変わらない楢原の生き方
1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。主な著書に『男気万字固め』(幻冬舎)、『人間コク宝』シリーズ(コアマガジン)、『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間書店)、『書評の星座』(ホーム社)など