知らない店に行く連載の反動か!?最高のチェーン店『味の民芸』練馬高松店の変わらない味【特別編】/カツセマサヒコ
ただ東京で生まれたというだけで何かを期待されるか、どこかを軽蔑されてきた気がする――。そんな小説家カツセマサヒコが“アウェイな東京”に馴染むべくさまざまな店を訪ねては狼狽える冒険エッセイ。今回訪れたのは、連載のテーマからは外れるかもしれないチェーン店。味の民芸はカツセマサヒコが幼少の頃から愛した場所だという。
思い出とともに訪れた店での願いは今日も「すこしドラマになってくれ」
魂がチェーン店を欲していた。知らない街の、知らない店に行くという当連載の反動が来たのか、チェーン店ならではの画一的な魅力が恋しくてたまらなくなっていた。
「味の民芸に、行かせてください」
担当編集に頭を下げた。
「味の民芸(以下、民芸)」とは、私が幼少の頃から深く愛してきた和食チェーンの名称である。その手延べうどんは細く延ばされた麺の先端がきしめんのように幅広い形状になっていて、啜ると一本だけでも口の中で食感が変化していく魅力的な特徴がある。
幼少の頃、実家の近所と、祖父の墓がある墓地の近くに「民芸」があった。親に連れられて初めてそのうどんを口にしたとき、こんなにも好みの味があるものかと魅了され、それからというもの、自宅を引っ越すたび、最寄りの「民芸」を調べるようになった。
30年以上通い続けたが、その味に飽きたことはない。うどんがメインに違いないが、手羽先や寿司、串かつ、天ぷら、サラダなど、実はサイドメニューも強打者が揃う。つまみメニューも豊富なので、食事だけで済まさず、だらだらとお酒を飲んで最後にうどんで締めて帰るのもありだ。
どうですか、一回だけでも、ダメですか。私は担当編集に、懇願し続けた。
1986年、東京都生まれ。小説家。『明け方の若者たち』(幻冬舎)でデビュー。そのほか著書に『夜行秘密』(双葉社)、『ブルーマリッジ』(新潮社)、『わたしたちは、海』(光文社)などがある。好きなチェーン店は「味の民芸」「てんや」「珈琲館」
特別編:最高のチェーン店【光が丘駅・味の民芸(ファミレス)】vol.18
1986年、東京都生まれ。小説家。『明け方の若者たち』(幻冬舎)でデビュー。そのほか著書に『夜行秘密』(双葉社)、『ブルーマリッジ』(新潮社)、『わたしたちは、海』(光文社)などがある。好きなチェーン店は「味の民芸」「てんや」「珈琲館」



