更新日:2026年05月12日 18:13
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寿司の過大評価を許すな【神田駅・立ち食い寿司 大松(寿司屋)】/カツセマサヒコ

ただ東京で生まれたというだけで何かを期待されるか、どこかを軽蔑されてきた気がする――。そんな小説家カツセマサヒコが“アウェイな東京”に馴染むべくさまざまな店を訪ねては狼狽える冒険エッセイ。願いは今日も「すこしドラマになってくれ」

寿司の過大評価を許すな【神田駅・立ち食い寿司 大松(寿司屋)】vol.26

 寿司を食いたい、と思ったことが一度もない。油そばやモスバーガーを食べたいと思うことはしょっちゅうあるのに、寿司だけはない。  味や見た目の違いが、本当にわからない。ネタによって、食感が少しずつ違うことはわかるが、しかし、結局はナマの魚であって、なんなら醤油とワサビがないと料理として成立していないのではないかとさえ思っている。  それでも、大人になれば寿司屋に行く機会は増える。寿司が回っている店もあれば、回っていない店もある。コロナ禍を挟んでからは、回っている雰囲気はありながら、実はほとんど寿司は回っていないような店にも出合う。  どの店でも、同席している客たちに疑問を抱く。本当に美味しいと思ってんのか? 高級っぽさに騙されてないか? 尋ねはしないが、疑っている。  そんな私が、ひとりで立ち食い寿司に行く。それが今回の罰ゲームもとい取材である。  千代田区、神田駅前。ガード下にある「立ち食い寿司 大松」は、値段の割に味がよく、コスパに優れた良店として古くから愛されているらしい。  平日の昼下がり、L字のカウンターテーブルにはスーツ姿の人が目立って、全員が手慣れた様子で黙々と口に寿司を放り込んだり、海鮮丼を頬張ったりしていた。  その様子に、早速、圧を覚える。私は一人であることを告げ、入り口近くのカウンターに立った。  さて、何を食べようか。

1986年、東京都生まれ。小説家。『明け方の若者たち』(幻冬舎)でデビュー。そのほか著書に『夜行秘密』(双葉社)、『ブルーマリッジ』(新潮社)、『わたしたちは、海』(光文社)などがある。好きなチェーン店は「味の民芸」「てんや」「珈琲館」