更新日:2026年05月12日 18:13
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バカ舌vsディープ焼き肉【足立区某駅・取材拒否の店(焼き肉屋)】/カツセマサヒコ

ただ東京で生まれたというだけで何かを期待されるか、どこかを軽蔑されてきた気がする――。そんな小説家カツセマサヒコが“アウェイな東京”に馴染むべくさまざまな店を訪ねては狼狽える冒険エッセイ。 願いは今日も「すこしドラマになってくれ」

バカ舌vsディープ焼き肉【足立区某駅・取材拒否の店(焼き肉屋)】vol.25

 美味しいものを食べる機会は今日までたくさんあったはずなのに、相も変わらずバカ舌である。最近は開き直って「むしろバカ舌はコスパいいんすよー」なんて笑ってみたりしている。  だって、みなさん、予約が2年待ちの高級焼き肉店に行ってきました~とかSNSにあげてドヤついたりしてますよね? 俺からしたらその肉、牛角とほぼ一緒っスから! アッハッハ!  徐々に食事会に誘われなくなり、友人が激減していることに気付いた。もう遅い。  とくにわからないのが、肉の部位である。目を閉じて口に放り込んだら、カルビとロース、ハツとミノは、私の中で大体同じものである。 「じゃあ、次は焼き肉屋に行きます?」  担当編集は話を聞いてくれない。  そうして私は、足立区内のとある駅にいた。その街には肉好きが集まるディープな焼き肉店があるという。  目的地に向けて、20分近く歩く。ディープな店は大抵、駅から遠いところにあることをこの連載で学習済みである。  住宅街の真ん中に突然大きなスーパーが現れ、そのすぐそばに、目当ての焼き肉店と思わしき建物があった。外壁の塗装が著しく剥がれており、ディープさを誇示している。  早速、ガラガラと扉を開ける。L字のカウンターと小上がりがあり、壁にはちょっとしたねぶた祭りかと思うほど大きな熊手が掛けられている。カウンター席に座ると、目の前にはメニューと角型の七輪が置かれていて、カウンターの対面にいる店主の視線は店の隅のテレビに向いていた。  ハイボールと一緒に、タンとカルビ、軟骨、キムチを頼んでみる。

1986年、東京都生まれ。小説家。『明け方の若者たち』(幻冬舎)でデビュー。そのほか著書に『夜行秘密』(双葉社)、『ブルーマリッジ』(新潮社)、『わたしたちは、海』(光文社)などがある。好きなチェーン店は「味の民芸」「てんや」「珈琲館」