更新日:2026年08月19日 20:00
ライフ

5年付き合った二人は、スウェットのまま、たこ焼きを食べに出かけた/カツセマサヒコ

ただ東京で生まれたというだけで何かを期待されるか、どこかを軽蔑されてきた気がする――。そんな小説家カツセマサヒコが“アウェイな東京”に馴染むべくさまざまな店を訪ねては狼狽える冒険エッセイ。今回の舞台は、大塚のたこ焼き屋「はち八 大塚本店」。5年連れ添ったカップルの、怠惰で幸せな休日をめぐる、ちょっと不思議な一編。願いは今日も「すこしドラマになってくれ」

そんな二人が羨ましい【大塚駅・はち八 大塚本店(たこ焼き・明石焼き屋)】vol.43

 あるカップルのことを書く。  もう5年近く付き合っていて、二人の間に緊張感はない。わざわざデートにお洒落な服を選ばないし、そもそも一緒に暮らしているのだから、近所だったらスウェットに財布だけ持って出かけたりする。どこまでも怠惰な二人である。  ある日。たまたま二人とも平日に休みが重なって、朝はゆっくり眠って、午前中からセックスまでして、また二度寝をかます。次に空腹で目を覚ますと、お互い寝そべったままスマホを眺め、何を食べたいか軽く意見をぶつけ合う。 「あ、たこ焼き食べたい」 「おお、それだわ」  意見が一致し、ようやくベッドから体を引き剥がす。時刻は12時半。ちょうど昼食時である。  二人は揃って鏡の前で歯を磨き、寝癖を雑に整えて、例によってスウェットのままクロックスに足を通す。玄関脇の靴入れの上に置いた財布と家の鍵を持って、街へ繰り出す。彼女は日傘を広げる。二人は手を繋いだりほどいたりしながら、穏やかな風の中を歩く。
1986年、東京都生まれ。小説家。『明け方の若者たち』(幻冬舎)でデビュー。そのほか著書に『夜行秘密』(双葉社)、『ブルーマリッジ』(新潮社)、『わたしたちは、海』(光文社)などがある。好きなチェーン店は「味の民芸」「てんや」「珈琲館」