更新日:2026年08月19日 19:44
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『まだおじさんじゃない』現代中年 惑いまくり小説【第九章・第二話 若林信二編】「鈍臭い人」/鳥トマト

漫画編集者として働く若林信二。担当コミックのアニメ化が決まり、ライツ事業部の堅山とやりとりを重ねるうちに、自らが人生の“周回遅れ”であると気づく。担当作家・真中との関係は悪化の一途を辿る一方、カウンセラー・唯花との同棲を機に生活を見つめ直すが…… 「僕も五十歳になったときに、部長のような力を維持できているだろうか」――。『東京最低最悪最高!』が話題の人気漫画家・鳥トマトが“大人にならなければ”と自らを戒める中年の心の惑いを描く。

第九章(若林信二編)・第二話「鈍臭い人」

 もうすぐGWが始まる。昨日、唯花から体調がすぐれないので休日は映画を観たりして一緒にゆっくり過ごしたい、と言われた。不安になるので、あまり家で仕事をしないでほしい、とも。だから、できるだけ今日仕事を片付けておきたい。編集部に着くと、 「あっ、若林さん」  とコーヒーを片手に後ろからやってきた三上に、見てはいけないものを見た時のような顔をされる。 「どうかした?」  話しかけると三上が一瞬、驚いた顔をしてスマホを見せてきた。真中の「担当ありえないんだけど」とひと言だけ書かれたポストに写真がついていて、写真には開いた漫画雑誌が写っている。  よく見ると別のポストに「読者の方、気づいた人いると思うけど、担当編集が最新話と、その一個先の話の原稿を入れ替えて掲載しちゃってます。一話繰り上げて納品してる意味なし! 最悪……」という文章がついていた。自分がしでかしたことに気がついて、サッと血の気が引く。 「え、本当にこの時間まで気がついてなかったんですか? 昨日一晩中ずっと真中先生、スペースで配信しながら若林さんの文句言っててヤバかったですよ。なんか、途中から大御所の先生も会話に入ってきて、ビクトリアム編集部はヤバい、新人は絶対持ち込みするなみたいな話になってて……」 「嘘」  自分のデスクに行くのをやめ、廊下でそのままスマホの電源を入れてメールを確認した。本当だった。烏丸編集長から深夜に二、三件の着信履歴とメールが残っていた。
漫画家でありながら、歌ったり踊ったり、また小説家としても活動する奇才。現在、『二月に殺して桜に埋める』『私たちには風呂がある!』を連載中。その他の著書に『東京最低最悪最高!』『アッコちゃんは世界一』などがある。Xアカウント:@tori_the_tomato