ニュースなどで頻繁に取り上げられる「あおり運転」。被害者の精神的苦痛は深刻であり、トラウマにもなりかねない。 　自動車損害保険を扱うチューリッヒ保険は今年、『2024年あおり運転実態調査』を実施。あおり運転をされたことがあるドライバーは72.5％であった。昨年の53.5％よりも大幅に上昇し、この半年間でも24.1％と多くのドライバーがあおり運転に遭遇していることがわかった。 　今回は、あおり運転に遭いながらも、“なぜか”スカッとした2人のエピソードを紹介する。 「社用車を修理に出していたのも、タイミングが悪かったのかもしれません」 　そう話す富田聡さん（仮名・40代）はある日、修理中だった社用車の代わりに軽の自家用車で住宅街を移動していた。30キロ制限の細い路地を慎重に進んでいると、後ろからハイエースが追ってきたという。 「はじめは気にせず運転を続けていましたが、その車が異常に接近してきたんです。すぐ後ろにビタづけされた状態で、まるで私の車を押し出そうとしているかのようでした」 　富田さんは「何だ、こいつは」と思いながらも、冷静さを保つことに努めた。しかし、相手の車は執拗にあおり続け、さらには蛇行運転まで始めたそうだ。 　しかし富田さんは、“あるもの”に気づき動揺した。 「そのとき、ふと気づいたんです。相手の車両にある会社名のロゴが。わが社の下請け業者でした」 「まさか！」と思ったという富田さんだったが、あおり運転はエスカレートしていき、相手はパッシングまでする始末。狭い路地で追い越しも不可能な状況下での理不尽な行為に、富田さんは怒りが込み上げてきたという。 「次の交差点で右折すると、そこにはわが社の支社があるんです」 　富田さんはウインカーを出し、ゆっくりと右折した。案の定、相手の車も後を追ってきた。富田さんは支社の駐車場に入って車を止め、相手の車が入ってくるのを待ち構えることに。すると……。 「相手は明らかに困惑したようすで、私の車の横に停車しました」 　富田さんは落ち着いて車を降り、勇気を振り絞って相手の方へ歩みよった。 「相手も車から降りてきましたが、その顔は真っ青でした」 　富田さんは穏やかな口調で、「こんにちは。A商事の富田と申します。先ほどは大変危険な運転をされていましたね。何かお急ぎの用件でもあったのでしょうか？」と言ったという。 　ただ口をパクパクさせるばかりの相手を横目に、富田さんは追い打ちをかけるように「安全運転は御社の企業理念の1つだとうかがっています」と続けた。 「実は、私どもの会社とお取引のあるB運輸さんの車両だと気づきまして。今回の件について、御社の担当者様とお話しさせていただいてもよろしいでしょうか？」 　運転手の顔から血の気が引いていくのが見て取れたという。相手の男は深々と頭を下げ、必死に謝罪の言葉を並べた。結局、この件は相手の上司にまで報告され、会社をあげての謝罪に至ったそうだ。 　それ以降、その会社の車を見かけるたびに、極めて丁寧な運転をしているのを目にするようになったと、富田さんは話す。 「あの日の出来事は危険で不愉快な経験でしたが、最終的にはよい結果をもたらしました。あおり運転という非常識な行為に対し、冷静かつ賢明に対処できたことで、スカッとした気分を味わえましたね」