【新連載 東出昌大 vol.1】ググッても出てこない、山間部の人々の知恵
はじめまして。東出と申します。役者でお金を稼いでおります。今年36歳になり、先日テレビの企画で占ってもらったところ「魔六殺」というヤバい時期に突入しているらしく、そうはいっても役者業界では「ヤク(役)が落ちるから厄落としはしちゃいけない」が通説。「じゃあもう詰んでるじゃん……」とふてくされつつも、最近は「生きてりゃいいんじゃね」が口癖のどうかしている男です。
普段は北関東の山間部に住み、食卓には狩猟採集した食材を並べることもしばしば。スーパーで肉やお野菜を買うよりも自分で獲り、採り、摂るほうが楽しく美味しく感じるので、都市部よりも便利ではないけど、その不便さに喜びを見いだす生活をしております。
なんで私に連載の白羽の矢が立ったのか? 編集部いわく「田舎の話をしてください」と。田舎に住むと、知らないことが多く、日々地元の方々にお知恵を拝借する。
あれは、雨のシトシト降る夏の深夜のことだった。家の横の崩れかかった石垣とその隙間に生えた青草の上に、一匹のマムシがいた。マムシは本州では珍しいヤバめの毒を持ったヘビ。三角形の頭にずんぐりむっくりした体、柄も派手でドスの利いた凄みがあり、一目見て「うわっ! こわっ!」と思うヴィジュアルをしている。
しかし、新宿・歌舞伎町の近くにある「赤ひげ薬局」にもその名を冠した商品が並んでいるように、古来からマムシは滋養強壮に優れているといわれ、田舎の家庭では度数の強い酒に漬け込んだマムシ酒を作っていたりする。私もそれを作りたかった。
ヘッドライトに照らされたマムシはこちらを見ている。濡れた寸胴の胴体は艶かしく、光を反射させた眼球は夕日を浴びたガーネットのようにきらめいていた。BBQ用のトングを取りに10mほど走ったが、戻ってきた時にはもういない。諦めきれず10分ほど捜すも、ヘビは闇夜の奥に溶けていった。翌日、温泉に行きマムシ酒作りの名人のオッチャンにこの話をした。
「馬鹿っ! なんで砂かけねぇだっ!?」
「スナ……?」
「3回砂かけたら向こうは威嚇すんべ! そん時にとぐろ巻くだ! したらほどくのに時間かかるから逃げねぇだ!」
……知らなかった。心から「へぇ~」と唸った。こんな情報、ググっても出てこない。
コンビニがあって、ネットで買い物ができるのが「常識」になった現代において、100年前の山間部の人々が当たり前にやっていた行為は、ロストテクノロジーのようになりつつあるのではと思う。人類は何万年もそうやって生きてきたのに。
その叡智の名残を僅かに残すのが、私の近所に住む70歳以上のおっちゃん、おばちゃんたちなのではないか。「温故知新」という言葉もある。36歳にして厨二っぽさを残す私はそれっぽい言葉を使いたがる節もあるが、でも昔の偉い人が言った言葉が今も残ってるなら、凡庸な私の縁くらいにはなるだろう。
思索の種を蒔いたり、落ち穂を拾ったり、取り止めのないことを毎回書き連ねるが、しばしお付き合いいただけましたら幸いです。
<文/東出昌大>
1988年、埼玉県生まれ。’04年「第19回メンズノンノ専属モデルオーディション」でグランプリを獲得。’12年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。現在は北関東の山間部で狩猟生活をしながら役者業をしている
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