更新日:2025年10月03日 15:45
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たしかにネタになる…唯一無二のスーパー『新町ストアー』(小岩駅)の奇抜なシステム/カツセマサヒコ

ただ東京で生まれたというだけで何かを期待されるか、どこかを軽蔑されてきた気がする――そんな小説家カツセマサヒコが“アウェイな東京”に馴染むべくさまざまな店を訪ねては狼狽える冒険エッセイ。今回訪れたのは葛飾区の小岩駅にあるスーパー『新町ストアー』。 「ネタになる」と担当編集に言われるまま訪れた先に、何が待っているのか? 願いは今日も「すこしドラマになってくれ」。

その外観を超えた先で【小岩駅・新町ストアー(スーパー)】vol.13

人それぞれに清潔不潔の価値観がある、という話なのだけれど、先日「あ、これはちょっと、勇気が要りますね」と臆した瞬間があった。 「店内で飲酒できるスーパーがあるんですよ。ネタになるので、行ってみてください」 担当編集のメールには、葛飾区にあるスーパーマーケット「新町ストアー」の住所が書かれていた。 小岩駅から歩いて20分。コンビニすら見当たらない穏やかな住宅街だが、当該の住所に近づいてもそれらしきものは見えず、まさか閉店したのでは?と戸惑い始めた頃に、視界の端でそれを捉えた。 ボロボロに破けて八割方なくなった暖簾、朽ちて剥がれた壁面、一部が下りきった錆びたシャッター。 看板も見当たらないその店を見て、急に雨が降り出すように、悲しみが湧いた。 やはり、閉店したのだ。 街に愛された店が、何かの理由で、姿を消した。時の流れの残酷さを思い、目を瞑る。 すると、音がして、開かないはずのガラス扉が、開いた。 中から、いかにも買い物を終えたばかりの中年男性が、満足げな顔で、現れた。 まさか、営業中なのか? 店を覗いた。閉店だなんてとんでもない、と言わんばかりに、明かりが見えた。 一瞬でも廃墟を疑ってしまった自分を、ひどく恥じた。恥じたところで、店舗に入るのはやっぱり勇気が必要なほど、古い建物だった。 中は、コンビニを一回り大きくしたような広さだが、幼少期に通った駄菓子屋のようだった。ゴムのようなタイルの床と、雑多に並んだ商品群。古いラジカセから聞こえるAMラジオ。お菓子棚の上段に並べられた焼酎や日本酒は、売り物ではなく、常連客がキープしたボトルだと気付いて笑ってしまった。

1986年、東京都生まれ。小説家。『明け方の若者たち』(幻冬舎)でデビュー。そのほか著書に『夜行秘密』(双葉社)、『ブルーマリッジ』(新潮社)、『わたしたちは、海』(光文社)などがある。好きなチェーン店は「味の民芸」「てんや」「珈琲館」