『孤独のグルメ』とキムタクと…永福町にある思い出の地・つり堀『武蔵野園』/カツセマサヒコ
ただ東京で生まれたというだけで何かを期待されるか、どこかを軽蔑されてきた気がする――。そんな小説家カツセマサヒコが“アウェイな東京”に馴染むべくさまざまな店を訪ねては狼狽える冒険エッセイ。今回訪れたのは、幼少期にカツセマサヒコがよく遊んだ和田堀公園。その一角にある釣り堀「武蔵野園」は父と兄と釣りをした思い出の地だ。
久しぶりに訪れたこの場所での願いは今日も「すこしドラマになってくれ」。
杉並区に流れる善福寺川の脇には公園がいくつも連なっており、遊具や広場や池なんかが延々と続くものだから、幼少期の自分にとっては終わりのない楽園みたいな場所だった。小学校高学年にもなると、買ったばかりの自転車で川に沿って遠くまで探検に出かけては、雑木林の中で新車の鍵を紛失し、家に帰れなくなったりしたものだった。
善福寺川沿いにある和田堀公園の釣り堀「武蔵野園」もまた、小さな頃に父に連れていってもらった、思い出の場所の一つである。
夏、日曜の朝9時の開店に合わせて入園し、そこから3時間、父と兄と3人で、ただただ水面に浮かぶウキを見て過ごした。多いときにはひとり10匹以上の鯉やフナを釣ったもので、目いっぱい満たされたあとに食べる父や母の手料理が好きだった。
そんな思い出の地にテレビ番組『孤独のグルメ』がやってきたのは、もう何年も前のことだ。私の知る「近所の釣り堀屋さん」は、いつの間にか都内でも有名な釣り堀店として扱われるようになっていて、食堂フロアが少しだけ綺麗になったり、釣り堀の真ん中にUSJを意識したような巨大なサメのオブジェが設置されたりして、若干の経済の潤いを感じさせるから戸惑ったものだった。
実家を離れて15年近くたつ。ふいに、「武蔵野園」を思い出し、足を運んだ。釣り堀で遊んだことは何十回もあったが、食堂に入るのは初めてで、ずいぶん遅れてのデビューとなった。
1986年、東京都生まれ。小説家。『明け方の若者たち』(幻冬舎)でデビュー。そのほか著書に『夜行秘密』(双葉社)、『ブルーマリッジ』(新潮社)、『わたしたちは、海』(光文社)などがある。好きなチェーン店は「味の民芸」「てんや」「珈琲館」
たまたま生まれた【永福町駅・つり堀 武蔵野園】vol.15
1986年、東京都生まれ。小説家。『明け方の若者たち』(幻冬舎)でデビュー。そのほか著書に『夜行秘密』(双葉社)、『ブルーマリッジ』(新潮社)、『わたしたちは、海』(光文社)などがある。好きなチェーン店は「味の民芸」「てんや」「珈琲館」



