更新日:2025年10月03日 15:46
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金融経済の中心地・茅場町で見つけた昭和漂う「女人禁制」の立ち飲み居酒屋『ニューカヤバ』/カツセマサヒコ

ただ東京で生まれたというだけで何かを期待されるか、どこかを軽蔑されてきた気がする――そんな小説家カツセマサヒコが“アウェイな東京”に馴染むべくさまざまな店を訪ねては狼狽える冒険エッセイ。今回訪れたのは、証券会社などが乱立する金融の街・茅場町。一流サラリーマンたちが集うこの街で見つけたのは、昭和漂う立ち飲み居酒屋だった。 そこでの願いは今日も「すこしドラマになってくれ」だ。

男は面倒くさくなる【茅場町駅・ニューカヤバ(立ち飲み居酒屋)】vol.14

楽しそうに笑う男たちの頬が赤く染まっているのは、照れているからでも、酔っているからでもなく、目の前の焼き台の炭火に照らされているからであった。 中央区茅場町。東京証券取引所や証券会社の多くが集まっていることから「金融経済の中心地」と呼ばれるこの街に、今も現役にして昭和の懐かしさを醸す立ち飲み屋「ニューカヤバ」がある。 店で楽しそうに酒を飲む3人は職場の同僚らしいけれど、手を叩いて笑い合う様子には、仕事付き合い以上の親密さがうかがわれた。 そのやりとりを盗み聞きしているうち、自分のグラスが空いていたので、壁に並んでいる古いビールサーバーのような機械へ向かう。グラスを置き、お金を入れると、トリスハイボールやキンミヤが、一定量注がれる仕組みだ。 飲み物も食べ物も、ほとんどセルフ。それがこの店の常識らしい。 カウンターの向こうで、女性店員が2人、とても忙しそうにしている。てき、ぱき、という言葉がよく似合う2人である。決して媚びず、強く、逞しく。そうやって生きてきた気概を感じる。 つまみの他に、串焼きも食べられる。だが、これも客が自分で焼く。注文し、砂肝や鶏皮を刺した串を受け取った私は、店の奥の焼き台に戻る。 例の3人が先ほどよりも盛り上がっている。辺りを見回すと、どのテーブルも埋まっていて、行き場をなくし、何もないところで一人立って飲んでいる人もいる。 そこまでして、酒を飲みたいと思う気持ちを、少しだけ羨ましく思う。 私は酒に弱いから、「酔いが醒めてきたので飲み直しましょう」とか「酔い足りないから一人でもう一軒行きました」という発想ができない。

1986年、東京都生まれ。小説家。『明け方の若者たち』(幻冬舎)でデビュー。そのほか著書に『夜行秘密』(双葉社)、『ブルーマリッジ』(新潮社)、『わたしたちは、海』(光文社)などがある。好きなチェーン店は「味の民芸」「てんや」「珈琲館」