更新日:2025年08月19日 19:01
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「病院には本当の親を見つける義務がある」67年前の“新生児取り違え事件”で東京地裁が異例判断。小池都知事が控訴断念の裏側

 出生時に都立病院で取り違えられたとして67歳の男性が東京都を相手に起こした訴訟で、東京地裁は4月、分娩契約に基づき「病院には本当の親を見つける義務がある」と判断。戸籍台帳などから調査を尽くすよう命じた。都は控訴を断念し判決は確定。“白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は、独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。
その判決に異議あり!岡口基一 67年前の出生取り違え事件訴訟

※写真はイメージです

「病院は生みの親を探せ!」出生取り違えで異例の強硬措置

 裁判官は時に、チャレンジングな判決を出したいという衝動に駆られることがある。法的根拠は乏しいが、結果の妥当性を重視するなら、目の前の被害者をどうにかして救わなければならない──そう考えるに至ったときなどだ。これまでにない新しいタイプの被害が発生したのに、それを救済する法律がまだ整備されていないといった場合がいい例だろう。  そこで、一部の裁判官は屁理屈に近いロジックをひねり出し、無理やり被害者を「勝たせる」判決文を書く。こうした正義感に引っ張られやすいのは第一審、つまり地裁の裁判官が多い。  市民目線で見たら、そんな無理筋の判決などどうせ上級審で覆されるのがオチ、と思うのではないか。ところが、必ずしもそうはならない。なぜなら高裁は、地裁の裁判官が「デタラメな判決」との批判を受ける覚悟で出した判決から、その背後にある思いや事情を酌み取ることが多いからだ。  もっとも、高裁としても地裁の出した無理筋の判決をそのまま容認することはできない。そこで、高裁は“ウルトラC”を繰り出す──上級裁判所の権威を盾に、強い態度で「和解」を迫るのである。  もちろん和解は「100対0」では成立しない。結果的に、被害者側が7割程度の満足を得るような落としどころで決着する。法的には勝てない事案でも、こうして現実的な救済がなされることがあるのだ。ただし、このやり方には限界がある。相手方が国や地方自治体だった場合、基本的に和解には応じないからだ。

行政を相手取った訴訟で起こりうる「政治的控訴断念」


おかぐち・きいち◎元裁判官 1966年生まれ、東大法学部卒。1991年に司法試験合格。大阪・東京・仙台高裁などで判事を務める。旧Twitterを通じて実名で情報発信を続けていたが、「これからも、エ ロ エ ロ ツイートがんばるね」といった発言や上半身裸に白ブリーフ一丁の自身の画像を投稿し物議を醸す。その後、あるツイートを巡って弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった。著書『要件事実マニュアル』は法曹界のロングセラー