更新日:2026年01月05日 17:39
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相手の痛みに付き合えるのは若いから…深夜23時女性にLINE返信できない中年の体力『まだおじさんじゃない』【第三章・第三話】/鳥トマト

 出版社・有幻社で漫画編集者として働く若林信二。担当作のアニメ化が決まり、ライツ事業部の堅山賢一とやりとりを重ねるが、彼の〝真っ当さ〟に触れ、自らが人生の〝周回遅れ〟であると気づく。そして始めた婚活アプリもうまくいかず、元カノの歩には痛いところを突かれ……。 「僕も五十歳になったときに、部長のような力を維持できているだろうか」――。『東京最低最悪最高!』が話題の人気漫画家・鳥トマトが“大人にならなければ”と自らを戒める中年の心の惑いを描く。

第三章(若林信二編)・第三話「痛い女VS.痛がり男」

 俺は酷暑の中、トー横のZepp新宿の階段脇に立たされていた。 「行こうと思ってたライブのチケットが、彼氏と別れて余っちゃったんですよ。若林さん来週来れないですか?」  一週間前に、担当している女性漫画家のアピ丸から連絡が来て、俺は二つ返事で「行きます!」と返事をした。アピ丸は他誌でエッセイ漫画を連載していて、俺がYouTubeに出ているのを見て、Xで声をかけてきたのだ。最初に来たDMには「若林さんみたいな、すごい男性編集者の方に漫画を見てもらえたらモチベが上がると思うんです!」という文章と共に、ネームのPDFに加えて、自撮りが添えられていた。アピ丸はまだ二十代後半だから、俺が恋愛対象になるわけはないと思いつつ、服を慎重に選んだ。おじさんだとは思われたくない。  水曜日のカンパネラみたいな女が向こうから走ってきて、目がチカチカした。 「若林さん、お待たせしましたぁ!」  アピ丸が敬礼のポーズで俺に挨拶する。俺もちょっとおどけて敬礼を返す。頭の編み込みから、赤いインナーカラーが見えている。リュックはカラフルなアクキーやら人形やらでジャラジャラだ。アピ丸は、ブスとは言わないが美人ではない。でも、まつ毛を長くしたり、目の下を赤くしてきたりと、なんか、がんばった形跡はある。  整理番号が呼ばれ、俺とアピ丸は並んで建物の中に入っていく。俺は歩きながら、「この前ネームを見せてくれた毒親漫画はもうやらないんですか?」と聞く。  アピ丸が俺に持ち込んできたのは、「自分の母親が過干渉な毒親である」という内容のエッセイ漫画だった。 「時間がかかってるんですぅ。ママのこと思い出すと頭が痛くなっちゃってぇ」  アピ丸は頭を押さえながらぺろっと舌を出した。その拍子に、長袖が少しめくれて、左腕にリストカットの痕が見える。正直、俺はアピ丸の漫画をあまり面白いと思えなかった。母が嫌い、だから家出。お金がなくなって、鬱になって、自傷行為。そんなの女だから許されてる甘えじゃねぇの?と俺は思ってしまう。
漫画家でありながら、歌ったり踊ったり、また小説家としても活動する奇才。現在、『東京最低最悪最高!』『私たちには風呂がある!』を連載中。その他の著書に『アッコちゃんは世界一』『幻滅カメラ』などがある。Xアカウント:@tori_the_tomato