更新日:2026年01月05日 17:39
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やる気のない若手社員に合わせてやる気を削がれる不条理に耐える 小説『まだおじさんじゃない』【第三章・第四話】/鳥トマト

出版社・有幻社で漫画編集者として働く若林信二。担当作のアニメ化に際し、同社ライツ事業部の堅山賢一の“真っ当さ”に触れ、自らが人生の“周回遅れ”であると気づく。そして婚活アプリを始めてみるもうまくいかず、仕事では担当作家の面倒を見るうちに夜が更けていき……

第三章(若林信二編)・第四話「あなたのことを思って」

 月曜日の昼、烏丸編集長に呼び出され、俺は何らかの説教を覚悟した。編集長は、物腰はやわらかいが極めて効率的な男だ。子供がそろそろ中学受験とかで、夜もあまり残業しない。だから、編集長が意味もなく人をランチに誘うことは、まずないのだ。 「若林の担当作、相変わらずみんな調子いいじゃない。俺も面白く読んでるよ」 社食の入り口で褒められて、ありがとうございます、と俺は返事をする。 「それからあれ、ライブのチケットはごめん、経費にはならないかな」  編集長は社食でラーメンを注文しながらサラッと伝えてきた。なるほど、お説教はそれだったらしい。 「あとさ、深夜に三上くんにスラック控えてあげて」 「え?」  三上、というのは入社二年目で育休を取り、入社三年目にして時短で働いている男性編集者のことだ。 「そういうのも今ハラスメントだから」  編集長と俺は静かに席に座り、ラーメンを啜り始める。 「今度から、三上に連絡するときは、できるだけメールで、業務時間内にして。あと、俺もCCに入れてね」  経費精算、後輩へのスラックと、この短時間で二つも怒られてしまった。 「若林もそろそろ四十でしょ。もうこの編集部で俺の次くらいに長いんじゃないの? 成長しないとね」  編集長は気がついたらもう、ラーメンを食べ終えていた。速すぎる。たった十五分で俺に二つもお説教をした上に、ラーメンまで一瞬で吸い込んだ編集長。化け物だ。俺も、今以上に仕事をこなそうと思ったら、化け物に成長しなくてはならないんだろうか。
漫画家でありながら、歌ったり踊ったり、また小説家としても活動する奇才。現在、『東京最低最悪最高!』『私たちには風呂がある!』を連載中。その他の著書に『アッコちゃんは世界一』『幻滅カメラ』などがある。Xアカウント:@tori_the_tomato