更新日:2026年05月12日 16:58
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限界まで頑張り続けた先にいいことがあるのか。妻とのセックスを終えて自問自答する休日の夜 小説『まだおじさんじゃない』【第四章・第二話】/鳥トマト

 出版社・有幻社のライツ事業部で、アニメプロデューサーとして働く堅山賢一。漫画編集者・若林信二の担当コミック『私の理解あるカレ君』、通称「わたカレ」のアニメ化を担当しているが、著者のヒルビリー真中が「製作委員会に出資したい」と面倒なことを言い出した。そんなある日、部長に呼び出されて伝えられたのは部長の異動と、堅山の部長代理昇進の話だった。 「僕も五十歳になったときに、部長のような力を維持できているだろうか」――。『東京最低最悪最高!』が話題の人気漫画家・鳥トマトが“大人にならなければ”と自らを戒める中年の心の惑いを描く。

第四章(堅山賢一編)・第二話「言いにくい話」

「堅山さん、真中先生が製作委員会に挨拶する日って、決まってましたっけ?」  部署の自分のデスクに戻ったあと、若林から電話でもう何回も聞かれたことをまた聞かれ、僕は腹を決めた。猿渡から聞かされた恐ろしい話を若林にも伝えなくてはいけない。深呼吸をする。 「ちょっと問題が発生したので、落ち着いて聞いてください」  はい? と若林の気の抜けた声がする。 「まず、先日報告した『わたカレ』のアニメ製作委員会なんですが、白紙に戻りました。委員会メンバーのうち一社の資金繰りが悪いみたいで」  若林は何も言わない。 「その会社とは猿渡部長が直接話をつけてきてまして、元々『わたカレ』だけでなく、少年誌で連載している作品も含めて十作品ほどをバンドルしてアニメ化の約束をしていたのですが」 「バンドルってなんですか」 「えーっと、雑に説明するとセット販売です。その十作品、全て委員会の組成からやり直しになりました」  若林は五秒ほどの沈黙のあとに「えーっと詳しいことはわからないんですけど、ざっくりまとめると『わたカレ』のアニメ化は流れたって理解であってます?」と言った。若林の理解の遅さにあきれる。
漫画家でありながら、歌ったり踊ったり、また小説家としても活動する奇才。現在、『二月に殺して桜に埋める』『私たちには風呂がある!』を連載中。その他の著書に『東京最低最悪最高!』『アッコちゃんは世界一』などがある。Xアカウント:@tori_the_tomato