更新日:2026年01月05日 17:40
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会社は嫌な人間の集団…仕事の話か人の悪口しか話題にならない/小説『まだおじさんじゃない』【第四章・第一話】/鳥トマト

 出版社・有幻社のライツ事業部で、アニメプロデューサーとして働く堅山賢一。漫画編集者・若林信二の担当コミック『私の理解あるカレ君』、通称「わたカレ」のアニメ化を担当しているが、著者のヒルビリー真中が「製作委員会に出資したい」と面倒なことを言い出して…… 『東京最低最悪最高!』が話題の人気漫画家・鳥トマトが“大人にならなければ”と自らを戒める中年の心の惑いを描く。

第四章(堅山賢一編)・第一話「会社、嫌な人しかいない説」

「あー堅山さん、先ほどの製作委員会報告のメールありがとうございました」  僕は会社のデスクで編集部の若林からの問い合わせ電話に対応していた。なぜ、この男はすぐ電話をしてくるのだろう。質問があるならメールしてくればいいのに。 「真中先生が製作委員会メンバーにご挨拶できそうなタイミングって、ありそうですかね?」  面倒な仕事を増やしやがって、という言葉をのみ込む。経験上、あまり業界の他社に著者を紹介しない方がいい。特に漫画家は一回も社会人経験がない人も多いから、非常識な発言をして場を凍らせてしまうことがある。逆に、まともな人だと、今度は他社にクリエイターとして引き抜かれてオリジナルアニメやゲームシナリオ制作なんかを引き受けてしまい、既存の漫画の仕事に支障をきたしたりする。いずれにせよ、出版社としては著者を委員会メンバーと交流させるメリットが何もない。 「俺もう何回もやんわりと断ってるんですけど、真中先生は頑固なんですよ。これ以上断り続けたらSNSに『編集部がアニメの委員会に挨拶させてくれないの!』とか書きかねないです」  僕はため息が出そうになるのをなんとか抑え込み、「承知しました。アレンジします」と言っておいた。 「いや〜堅山さんも正直めんどいっすよね。仕事増やしちゃってすみません!」  この若林という男は他人をイラつかせる天才なのか? 仕事はあまねく面倒なものだ。せめて、やりがいのある仕事と関われて嬉しい、という演技をしてほしい。いつも一言余計だ。 「堅山先生! 配分表、できました! チェックお願いします!」  電話を切ると、背後に山野が待ち構えていた。配分表というのは、アニメの製作委員会の中で収入をどのように分け合うかを表にした資料だ。山野にはプロデューサー見習いとしてこれを作ってもらう仕事を与えていた。山野の資料をチェックする。 「合ってる。覚えるの早いじゃん」  やった〜! と山野がバンザイして子供のように喜ぶ。ギャルみたいな割に、仕事の理解は早くて助かっている。 「堅山さ〜ん、ランチ、行きません?」  山野の財布で肩をポンポン叩かれた。山野が来るまで人とランチに行くことなんか、なかった。最近はすっかり、この時間を楽しみにしている。
漫画家でありながら、歌ったり踊ったり、また小説家としても活動する奇才。現在、『東京最低最悪最高!』『私たちには風呂がある!』を連載中。その他の著書に『アッコちゃんは世界一』『幻滅カメラ』などがある。Xアカウント:@tori_the_tomato