更新日:2026年05月12日 16:59
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「自分ファースト」現代中年 惑いまくり小説『まだおじさんじゃない』【第四章・第四話】/鳥トマト

 出版社・有幻社のライツ事業部で、アニメプロデューサーとして働く堅山賢一(39歳)。同い年の漫画編集者・若林信二の担当コミック『私の理解あるカレ君』、通称「わたカレ」のアニメ化を担当しているが、堅山の上司・猿渡の不手際により計画は白紙に戻ってしまい…… 『東京最低最悪最高!』が話題の人気漫画家・鳥トマトが“大人にならなければ”と自らを戒める中年の心の惑いを描く。

第四章(堅山賢一編)・第四話「自分ファースト」

「賢一君」  会社に行こうとしたところを、妻の優に呼び止められた僕は、玄関で靴を履きながら返事をする。今日は九時半から打ち合わせがある。早く家を出なくてはいけない。 「最近忙しそうだね。今日も健吾は私がお迎えに行く感じだよね?」 「ごめんね、いつもありがとう」と言っておく。 「私ね、二人目、妊娠したかもしれない」  ドアにかける手が固まった。優を振り返る。緊張した顔をしていた。 「産婦人科は行ったの?」  僕が聞くと優は首を横に振った。「じゃあちょっと、夜また話そう」と言って家を出る。八時五十分のバスに乗らなければ間に合わない。  バスに揺られながら、子供が二人いる生活を想像した。優は里帰り出産をするつもりはないから、僕も数週間は産休を取らないといけないだろう。今五歳の健吾が新生児のときも夜中に何度も起こされて仕事にならなかった。そのあとは保活。上の子と同じ保育園に入れればいいが。乳幼児は風邪もひきやすいから有休を多めに取ることも覚悟しなくてはいけない。その全てに時間を取られる。  子供は好きだ。でも、子供の世話は好きじゃない。少なくとも、こんなに自分のキャリアが重要な時期に仕事を減らしてまで欲しいとは思わない。
漫画家でありながら、歌ったり踊ったり、また小説家としても活動する奇才。現在、『二月に殺して桜に埋める』『私たちには風呂がある!』を連載中。その他の著書に『東京最低最悪最高!』『アッコちゃんは世界一』などがある。Xアカウント:@tori_the_tomato