更新日:2026年05月29日 18:50
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『まだおじさんじゃない』現代中年 惑いまくり小説【第五章・第三話】「傲慢な善良っぽい人」/鳥トマト

 出版社・有幻社で漫画編集者として働く若林信二。担当作『わたカレ』のアニメ化が決まり、ライツ事業部の堅山賢一とやりとりを重ねるうちに、自らが人生の“周回遅れ”であると気づく。『わたカレ』のアニメ化は“白紙”の危機で、編集部には怪文書が届き続けている…… 「僕も五十歳になったときに、部長のような力を維持できているだろうか」――。『東京最低最悪最高!』が話題の人気漫画家・鳥トマトが“大人にならなければ”と自らを戒める中年の心の惑いを描く。

第五章(若林信二編)・第三話「傲慢な善良っぽい人」

「若林、ちょっといいかな」  週明け早々、俺は烏丸編集長に個別に会議室に呼び出され、これはいよいよダメかもしれない、と悟った。編集部の一つ下のフロアにある会議室に編集長が競歩みたいなスピードで入っていく。 「最近いろいろあったけど大丈夫? アピ丸君とか、真中先生とか。これから新連載もいくつか始まるから、また負荷も増えると思うんだけど」 「本当にすみません。大丈夫です」  正直に言うと大丈夫ではなかった。デスクの上も荒れ放題だ。こんなに続けざまに問題を起こしていたら、もしかして編集部を追い出されるのではないか、と急に不安になった。俺は新卒から漫画編集以外の仕事をしたことがない。今さら他の部署に行って一から仕事を教えてもらったとして、編集以外の仕事がちゃんとできるようになるだろうか。不安で背筋がゾッとする。編集長は椅子を少し後ろに下げ、だらしない格好になった。 「あのさ、俺、若林が新卒のときからずっと同じ部署にいるじゃない」 「はい」  いつもと違う編集長の態度に思わずうつむいてしまう。
漫画家でありながら、歌ったり踊ったり、また小説家としても活動する奇才。現在、『二月に殺して桜に埋める』『私たちには風呂がある!』を連載中。その他の著書に『東京最低最悪最高!』『アッコちゃんは世界一』などがある。Xアカウント:@tori_the_tomato