更新日:2026年05月29日 18:49
ライフ

現代中年 惑いまくり小説『まだおじさんじゃない』【第五章・第二話】/鳥トマト

 出版社・有幻社で漫画編集者として働く若林信二。担当作『わたカレ』のアニメ化が決まり、ライツ事業部の堅山賢一とやりとりを重ねるうちに、自らが人生の“周回遅れ”であると気づく。婚活アプリを始めるもうまくいかず、『わたカレ』のアニメ化も“白紙”の危機に陥り…… 「僕も五十歳になったときに、部長のような力を維持できているだろうか」――。『東京最低最悪最高!』が話題の人気漫画家・鳥トマトが“大人にならなければ”と自らを戒める中年の心の惑いを描く。

第五章(若林信二編)・第二話「灰色濡れネズミ」

「若林ちゃん、悪いけどアニメ系のことは今度から堅山ちゃんに直接聞くわね。その方がいろいろ教えてもらえるから」  それが真中と一か月前に交わした最後のLINEになっている。メールフォルダをアドレスで検索をかけるも、やはり真中からは二週間以上メールがない。 「真中先生からメールって来てる?」  編集部で近くの席に座っている三上に話しかける。三上は乳飲み子を抱える時短勤務のパパなので同席できない打ち合わせも多いが、一応俺が指導社員をしていて、真中の連載のサブ担当でもある。 「来てないですね。そういえば先生、原稿作業中の生配信も一週間くらい前からお休みしてますよ」  アニメ製作委員会はメンバーが変更になっても、制作の現場は動いているらしく、俺のところには委員会からの監修メールが来続けていた。真中にはLINEでその内容を共有しているから、彼とのLINE画面は俺が送った監修物のURLに埋め尽くされている。真中からはここ一か月「大丈夫です」と「OKです」という返事しかない。監修で心の余裕がないのだろうか。 「さすがに原稿のストックもないので、今週中にネームが上がってこないのはマズイです。ご体調大丈夫ですか? 一回まず打ち合わせだけでもしません?」
漫画家でありながら、歌ったり踊ったり、また小説家としても活動する奇才。現在、『二月に殺して桜に埋める』『私たちには風呂がある!』を連載中。その他の著書に『東京最低最悪最高!』『アッコちゃんは世界一』などがある。Xアカウント:@tori_the_tomato